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―休暇日Ⅷ 宴の支度Ⅰ―
浮沈集合島カサルシエラの居住者を迎える、という目的で出航した客船ダルティエの、料理師長の1人ダルマエト・フシェンデは、船縁から身を乗り出して、踵を上げ下げする。
目の前の島に、植物は少なくて、明らかな人工物が建っているので、人工浮島セスティオ・グォードだと確認できたが、それにしたって、これから見られるはずの未知の島に向けて、期待が弥増すのは当然だろう。
この船ダルティエも、先に来ていたヴィサイアも、国営の客船で、その用途は主に、外国での取引に向かう官吏たちの送迎だ。
用途を、公用としていながら、軍艦とは言えない船なのだが、船長以下、騎士が多く乗組員として乗船している。
ダルマエトは騎士ではないが、部下として、料理師資格を持つ騎士を1人抱えているし、食堂の給仕にも、警護の役割に重きを置く騎士が数人配されていて、そちらは、命令を下す部下ではないのだが、飲食提供区の仲間として接している。
この船の命令系統は、部屋ごとに割り振られていて、調理関係の部屋と、飲食を行うことを目的とする食堂や喫茶室の第一責任者は、食堂の調理場で料理師長を務めるダルマエトだ。
食堂の調理場を主な職場としている騎士だけは、ダルマエトの直属だが、食堂で接客に当たる騎士たちは、その内の1人を長としている。
ダルマエトは、非常時にも、自分の管轄区では高い発言権を持つが、船長がその頂点にあることは、ほかの船と変わりない。
また、ほかの船と同じく、非常時には、騎士である接客警護食堂班班長の命令の序列が繰り上がるので、円滑な遣り取りと船全体の保全強化のため、普段でも、班長からの依頼には、協力姿勢を取り、また、班長以下、騎士たちは、ダルマエトほか、各責任者には敬意と思いやりを持って接してくれる。
人物として、年齢の上下、個々の性質など、親しむのに、ほかの者に違いはないけれど、やはり、騎士は騎士だと、思わされる。
「その服装、料理師ですか。こちらの船の、料理師長?」
不意に掛かった声に、見上げれば、女騎士が、何か乗り物からこちらを見下ろしていた。
籠、と言うと、認識に食い違いが無いだろう。
彼女は、乗り物を急降下させると、暴露甲板に当たらない程度の位置で停止させて、その籠を消した。
「初めまして、私は元彩石騎士の蓬縛騎士リシェル・デトリーズ。こちらの船の対応を確認に来たのですよ。後ほど、調理場の方も確認させてもらいますね。それでは、船長に挨拶がありますので」
リシェルの方は、素通りしてくれるが、ダルマエトは、こんな存在を前に、追い縋らずには、いられない。
料理師が関わることは、全体から見れば少ないが、それでも料理師たちの口に上る程度には、名の知られた前代の彩石騎士だ。
「対応とは、具体的に!?」
大きめの声に、リシェルは、一旦、立ち止まると、振り向いてダルマエトを見た。
「ええ、大きなところだと、今夜、そこの人工浮島の中央で、宴会を開くのです。何しろ、人ではない生物で、植物の一部なども来ていたりするものだから、振る舞う食べ物、飲み物ひとつも、打ち合わせが必要なのです。基本的には、人の分だけ用意すればいいんですが、こちらは、皆を迎えに来た船ですからね。アルシュファイドまで、丸一日の距離だけでも、飲食を用意する必要があります。試しの機会を多く持った方がいいでしょう」
「それはもちろん!それで、どうするんだね!」
食い気味に迫るダルマエトに、リシェルは、ふふっと笑い声を漏らした。
「そう焦らないで。まずは、こちらの船長に、食事提供の許可や、セスティオ・グォード上陸の許可を求める必要があります。一緒に来ますか?それとも、調理場で、都合を確認しますか?」
「あ!そうだね!ああと、では、一緒に行くよ!どういう提供の形になるか、話し合わなければ!」
「そうですね。では、行きましょう」
そういうことで、航海船橋甲板の真下の階層から、待っていた乗組員の男騎士に案内されて、階段を上り、船長室の一部となる会合室に入った。
リシェルが一旦、ダルマエトの居た下層の暴露甲板に降りたのは、現在が緊急時ではないので、直接に船橋に乗り付けることは避けたのだ。
「ようこそ、客船ダルティエの船長アゲイスロウ・ゲダと言います。針盤騎士です」
アルシュファイド王国の針盤騎士は、ほかの船にも命令権と強制操舵力を持つ騎士の船長だ。
船長と一口に言っても、船の仕様によって、同じ大きさで部下の人数に差が大きい場合がある上、果たされる目的にも違いが多い。
そのため、アルシュファイド国民の、特に海を活動区域とする者たちへの判断基準として、この名称を用いている。
国内最大客船を船長として担えると認められた騎士ならば、大体、針盤騎士だ。
バルタ クィナールと並ぶ大きさの、ダルティエと、ヴィサイアは、大きさとしては最大に及ばない。
だが、アゲイスロウと同じく、船長であるライネスもメドニイも、針盤騎士だ。
このように、同位の船長が集まる海域では、それぞれが負う船体の序列で上位者が決まる。
この海域で言えば、バルタ クィナールを1位とし、その下が、やはり針盤騎士の船長が指揮を執る補給艦レナレーゼ、送迎客船ダルティエ、迎賓客船ヴィサイアの順だ。
船体の序列は、戦闘力の高さでもある。
戦闘力を低く見られる船体は、防衛力の高い船だ。
戦闘力の高い船は、状況を制圧する能力が高く、防衛力の高い船は、状況を鎮静化する力が強い。
アルシュファイド王国国営最大級の客船が最終手段を執る時、一帯の海域で無事に済む敵船は無い。
そこまで強い力を発すれば、巻き込まれる者も多いが、そこまでしてでも自国民を守る、代々の双王の苛烈さを示す独立建造物なのだ。
ほかの船も含め、強い防衛力を発揮させずに状況を好転させるために、ほかの船より高い位置にある船橋からの状況把握に基づく指揮能力も併せて、該当海域にある複数の船体の序列は決定する。
そのように序列し、上位者として指揮権を握り、複数の船体を制御する針盤騎士よりも上位にあるのが、彩石騎士となる。
ちなみに、双王の船上での指揮権は船長より下位だが、彩石騎士の序列に変動はない。
いざという時、双王が船ごと自衛することは許容範囲だが、船から打って出ることは許されない。
断行するときは、王位を退く覚悟が必要となる。
尤も、数年前に、その強大な力を政王アークが発揮した時のように、旗艦に在っても、航路を塞ぐ敵艦の排除くらいは、造作もないのだ。
「蓬縛騎士リシェル・デトリーズ。年齢は上みたいだし、気楽に話して欲しい」
「ありがたい。アグと呼んでくれ。ダルマエトは、なんで?」
「先に会って、同伴した。早速だが、この船の乗組員から聞こうか」
「ああ、可能な限り、騎士を乗せた。まあ、料理師とか、集められなかったから、専門師は多いがな」
「そっか。交渉官吏は?」
「外務省から4名、回してもらった。下船を視野に入れたのと、主に船内対応する組は、特に固定だ。接客に慣れた騎士も、接客師も居るんだが、まあ、長官からの要望が強かったこともあって」
今後、増えることになる交流なのだ。積極的に経験者を増やしたいところだろう。
外務省の交渉官吏なら、特に異文化への対応の経験の多さに期待できる。
すなわち、相手と違う認識の気付きと、それへの対処だ。
財務省の交渉官吏、先ほどのミレフレドとマコならば、利害の発生の察知力と、それへの対処に期待する。
「ま、そうよね。受け入れる数は、無理のない程度にする。ほかの船を呼べばいいから」
「承知した。あとは?」
「ええ。そう言えば、ジュールズは来たの?」
リシェルは先ほど、親睦遊戯の2回戦だけ参加して、自分とは違う生物たちと触れ合い、人々とも言葉を交わして、この親睦会の準備に加わりたいと思ったので、こちらに来たのだった。
自分も、持て成す側に回りたいと。
一応、ジュールズと、先代たちの活動を統轄するディークに声は掛けたが、判断を信頼されたことと、何より、義務で来たわけではないので、自由にしてくれと了承された。
「いや、従者が来た。そう、その対応を知らせるところだった。ちょうどいい。ダルマエト、この船は緑嵐騎士ジュールズ・デボアの指揮下に入る。その依頼で、まずは今日、これから、そこのセスティオ・グォードに上陸して、中央部で親睦会のために飲食の準備を手伝って欲しいということだ。料理の持ち運びや人の移動は騎士たちが対応するから、配膳と接客は受け持って欲しいということだ。船内の食堂での酒宴対応に近いものにして欲しいと」
「つまり献立も?」
「ああ。食器や食具が足りないなどは、なんとか対応できないか考えてみるということなので、行いたい持て成しの形があるなら、相談して欲しいと。机や椅子は、その形が決まったら、合わせて作るということだった。バルタ クィナールとヴィサイア、ああ、先着の客船だが、そちらと話し合いも必要だろう。基本姿勢としては、各調理場で独立して、通常の宴会用飲食の支度の範囲での提供としてもらいたいとのことだ。いきなり、彼らが持って来る食材を、調理しようとはしなくていいと。それと、各食事室で対応できない量を用意する必要はない、とのことだ」
「では、俺なら、この船の食堂で、晩餐を開く程度でよいと」
「そうだ。その形を、野外焼きや弁当などの屋外形式にするも、室内での慣例に則るも、自由ということだ。ただまあ、いくらか、食べ歩きのようなことにもなるのだろうから、立食形式で考えるのが無難だろう」
「食堂は閉めてもいいのか?」
「いや、それはさすがに困る。まあ、俺たちは乗組員用の食堂に行ってもいいんだが、客船の機能は停止したくない。少人数向けの対応でいいから、出来る者を残してくれ」
「ふうーん…」
考える様子のダルマエトに、アグは、ちょこっと不安を感じた。
「…あ、あとな?それが終われば、翌日は船での朝食もあるからな?そのあとも船での食事提供はあるからな?再来週の暁の日まで、1週間はあるからな?補給艦が同行してるからって、無茶なことはしないでくれ?」
「無茶ってなんだ?」
きらきらした目が怖い!
「考え付く限りの味付けを試すとか…」
「そりゃいいな!それから?」
「いや、だからそれはだめ…だからその、満足のいく食事量を探るとか…」
「そりゃ必要だな!それから?」
「うええ!?そ、それから…彼らの持ってきた食材の捌き方とか調理の仕方とか追求する…」
「楽しそうだ!今、行っていいか!もう行かないと!」
「いや、そんな暇ないだろう…。とにかく、先にしないといけないのは、料理師たちの話し合いと、担当の振り分けだろう。どっちを先にする?」
「む。そう言えば、彼らがどんな料理を作るか、気になるな」
リシェルが声を上げた。
「話し合いは、私が時間を合わせて連れて行くよ。どこで集まる?」
「調理場の設備が充実してるのは、ここなんだ。もしかして使う場合を考えて、今すぐにでも集まりたい」
賓客の接待の役割を持たせて建造されたヴィサイアは、調理の様子を警護の者に確認させるための居場所を外縁部に取り付けているなど、賓客対応の機能を加えている分、調理場は狭く、それもあって、対応人数というものは、少なくなっている。
この海域での船体を不都合少なく序列するためにも選ばれたこちら、ダルティエは、商取引への対応としての役割を持たされているため、調理場では、取引食材の調理の仕方を、紹介する場合もある。
鍋の中まで確認するし、調理に使う食材はもちろん、調味料の確認もするので、調理場への立ち入り人数が多くなることもあり、それへの対応として、作業区画に広いゆとりがある。
また、ヴィサイアは最新の調理法を積極的に取り入れているが、ダルティエは、相手国の調理事情に対応するため、最新のものから、アルシュファイド王国では発達しなかった調理器具まで揃っているのだ。
「では、知らせる。早い方がいいから、ああでも、今は昼食か」
「そうだ、そうだ!仕事前に、ちょっと出てきたところなのに!」
急いで戻らなければと、ダルマエトは腰が浮く。
「そう言えば、今日の昼は、どのような献立に?」
聞かれて、中途半端な体勢から、再び腰を下ろして落ち着ける。
「ああ、生物によっては、食べられない植物もあるかと、料理で多く使われる食材を中心に、なるべく1種類ずつで、香辛料ではなく、原材料を制限した調味料を用いて味付けをしてみた。透虹石の豬チェットが、昔の経験から、色々教えてくれている。まだ、こちらに宿泊する者が決まっていないから、人のための献立を少し出すくらいかと思っていた。人数が少ないからな」
リシェルが、思い出すようにしながら言った。
「バルタ クィナールでは、そう言えば、人の口で一口の大きさだったよ。今日はどうするのかな?ヴィサイアは今日は、浮遊艇に用意してくれるって言ってた。みんな遊戯場に行くからね、まとめて持って来てくれるって、そう言えば、私も食べに行かないと。13時から話し合いということで、構わないか。取り掛かりが遅くなりそうだが、その辺りは、調整できる?」
「もちろん。俺も今のうちに食事を摂ろう。それではな」
そういうことで、ダルマエトは喫茶室の調理場に寄り、そこから、乗組員用の食事室対応の調理場にも声を通して、調理担当者の対応を話し合うと、受け持ちの調理場に戻った。
食堂には、この船での活動と、打ち合わせのために乗船していた、外務省所属の交渉師4人と、城内庁所属の侍従が2人、侍女が2人、ひとつの机を囲んでいて、献立表を眺めていた。
「やあ、今からか。楽しんでくれ」
声を掛けて、調理場に入ると、夕食の献立を話し合う組と、今の時間の食事提供を行う組とに分かれていた。
「今から食事できる者は誰だ?話もあるから、時間の取れる者、頼む」
「なんの話だ?」
聞いたのは、透虹石の豬ペイトライチェット、呼称はチェットでいいらしい。
トーベリウムほど料理好きではないが、多様な生物に提供できる形の料理であれば、作れると言って、協力要請に応じてくれたのだ。
親睦の宴があると答えて、話し合う者と、食事する者を決め、共に賄いと呼ばれる調理場の者たち用の食事を整えると、試食室で机を囲む。
事前に聞いていたことだが、そもそも、トーベリウムの作る料理と、チェットの料理は違うのだそうだ。
「トーベリウムは、人の食への貪欲さに、興味津々なのさ。俺は騎士たちに同行する食事番だったんだ。だから騎士たちに懐いてた動植物の食事も知ってんだ。基本的に、人が多く食べるものの中に、ほかの動植物にとっての危険はない。ただ、香辛料とかはな、刺激の強い成分が入ってるのは、種を選ぶ。多くの生物には毒でも、1種にとっては役立つとかな。それと、成分が激しく変化するのは要注意。だから熟成とか乾燥とかは避けた方がいい。熱を加えたり極端に冷やすのも、だめだな。だが、湯に入れると成分が溶け出すとかいうのはあるだろう。俺のする料理は、そういうので、調味じゃなくて、調理をしているのさ。食べやすい味付けで、楽しむための味付けじゃない」
そのように聞いて、昨日は日中、航行する船でずっと、要注意の食材と、扱いについて、学ばせてもらっていた。
「さて、それで、夕食だが、こちらに残らなければならない者も居るので、………いや、全員、下船してもらうか」
極端なことを言い出す料理師長に、ほかの者は、喜ぶ者半分以上、残りは、どうなんだろうと考えて、なんとも面白い表情の変化だ。
料理師資格を持つ騎士で、ダルマエトの部下となるキトレ・ビルルが、頷いて言った。
「大丈夫だと思います。もともと、彼らへの応接を学びに来たのですから、こういう機会は、ある方がいいと思います。現在の客たちが揃って出掛けるのであれば、船長は、船員食堂でも、たまの船員との交流を貴重とも思ってもらえそうです」
確認して来ますと言ってキトレは、空になった器などを持って立った。
一旦、この試食室の皿洗い区画で、流し場の湯張り区画にそれらを沈めると、部屋を出る。
ダルマエトは、そちらは彼に任せることにして、ほとんど食事を終えた皆を見た。
「それで、提供の仕方だが、野外焼きによくある串刺しでの形が良いかと思うんだが」
これには、チェットから待ったが掛かる。
「いや、それはまずい。種によって、いい加減の具合が大幅に違うからな。最大限、食べられるものと食べられないものの区別は、付けやすくしないとな。食器に載せるのも注意が必要なほどだ」
「それは、もしかして、皿も食べられる方がいいか」
「え?うん。そうできるなら、そうした方がいいが」
「汁物でも?」
「うーん…。水の器は、いくらなんでも食べないが、うまそうな匂いのするもので、水以外だと、器ごと食べにいくかもな…」
「それほどなら、器の作成からやってみる。フッカに使われる成分は、問題ないだろうか。サズと呼ばれている穀物と、酵母と呼ばれている微生物…菌の類、茸に似た…増殖?のものと、水と塩だ」
「微生物?虫か。造られた時に、区別を虫としているものは、魚と同じで、意思なきものだ。多くは生物にとっての栄養素と言える。見た目に、増殖できない状態のものなら、活動を停止したものと考えていい。毒を持つものも、時間経過を長く要する場合もあるが、土、風、水、火に混ざりながら抜けていく。本体ごと分解されたりもな。ただ、土、風、水、火に触れることで、毒に変化する場合はあるんだけどな。人が食べて平気なら、大丈夫だろうと、まあ、そんな見分けだ。源始や言始には、木の実のような個別の意思の無い分離体が有ったから試せたが、原初の生物に関しては、サーロンとリッテに確かめないといけなかった。だがまあ、虫なら、人が食べられるものは大丈夫だろう。基本的に、意思あるものを生かすために造られたのが虫だ。人にとっての毒は、別の種にとって必要となる成分なんだ。まあ、そんな違いもあるからか、逆のこともあるんだがな。フッカは人にとっての主食だから、食べられるかどうかは、確かめた方がいいと思う。今後も、限定すると言っても、付き合いが続くなら、知らなければならないことだ」
彩石動物が声を発するので、息継ぎが無い言葉を、皆、筆を片手に注意深く聞く。
「では、体の大きさに合わせて、少量を食べてもらって、時間を置いてから、確認、そのあと、問題無ければ、提供か」
「うん。俺も、大体そんな感じで与えていた」
「では、薄くしたのがいいな。ああ、サズと水と塩はいいのだよな」
「サズは稻の類だろう。育てやすくしたのがヒュミで、サズはヒュミと違って、粉にしてから、食べるときの形を変えてはどうかと、作ったものだそうだ。そう、稻とかな、木とはされない草の類も、虫と同じく、地に生える意思持たぬものだ。食べさせて問題のあった生物はいない。水というのは、色々混ざったやつだな?特定の鉱物を多く含むとかは、問題がある。うーん。青水石から作る水を使うのが、今夜は手間が無いかな。ただし、あれは、成分として不純物を含まないから、意識しないと味が無いし、養分のある土を通して湧いたものではないから、そういう水特有の働きはないんだ。粉が溶けなかったり、分離したまま接着しなかったり」
「そうなのか?しかし、船で使っている水は…」
「水の力を持つ者が、水の働きを意識せずに定義しているなら、作られた水が影響を受けて変化していることは多い。あと、青水石でなく、ほかの水の力の石とかな。黄色系統の水の石は、だいたい、鉱物と生物の均衡がいいぞ。まあ、少ないか。んー…。ミナなら、適当な石が見分けられると思うんだが…」
「ミナって?」
「今代の彩石判定師さ。あ、でも…いや。うーん。水の宮じゃあ、無理か…」
チェットが、うーん、うーんと首を右に左に、後ろに前にと傾ける。
「……ええと、どこに悩んでいるのか判らないが、とにかく相談だけしてみては?あちらの方で、いい案を出してくれるかもしれない」
「それもそうか!じゃあ、行こう!」
さっきまで悩んでいたのが嘘のように、チェットの表情が明るくなる。
キトレと仲良くしてて、ちょっと拗ねていたのだが、やっぱり、この獣のことが好きだと、ダルマエトは思った。
まあ、部下の友人なら、自分の友人も同然ではないか?
それは乱暴な理屈だけれど、歩み寄る前から諦めなくてもいいんじゃないか?
どうやら、気持ちの切り替えができたようだと、ダルマエトは強く頷き、言った。
「いや!ほかの船の料理師たちが集まるから、来てもらおう!今日は休暇とか言ってたが、親睦遊戯も、親睦準備も、変わらないさ!ただまあ、ちょっとは気を使って、持て成しの準備をしておこうな!」
「名案だ!それこそキトレの師匠!」
「ふふふ!自負している!」
なんか、調子に乗せ過ぎじゃないのと、周囲は思うけれど、誰も指摘してくれない。
こうして、親睦準備のために、伝達が飛ばされることになった。
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