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―休暇日ⅩⅠ 親交―
遊び疲れたキリュウたちは、船に戻って補食をいただき、飲み物を飲むと、軽く昼寝を促されて、新たに作ってもらった休憩用浮遊艇に寝転がった。
熊人ロムは、姿は、人の子の15歳未満で、キリュウに並ぶが、熊の姿では、両親より一回り小さいくらいだ。
その両親の熊の時の姿は、セイエンの本来の姿の、半分くらいだろうか。
熊の仲間としては、小さい方になる。
キリュウと一緒に眠った時は人型だったのだが、ふっと目を覚ますと、熊になっていた。
このまま顔を合わせると、キリュウが驚くかもしれないと、思った瞬間、いつの間にか起きていたサキと目が合った。
ロムが慌てて、人の姿になると、サキは、ああ、と息を吐いた。
「ロムだったんだ。びっくりした」
「ご、ごめん」
「だいじょうぶ。キリュウたちが起きるから、ちょっと、はなれようぜ」
寝る場所は、中央にあって、個室となっているので、扉から、ふたりでそっと抜け出して、浮遊艇の外向きに座る椅子に並んで腰掛けた。
今、ジュールズたちは宴会場の設営を行っているので、浮遊艇も、その上空に浮かんでおり、時折、空を行く鳥獣が目を向けるほかにも、下方の設営を眺めることができて、興味が湧く。
「すごいなー。いろんな動物がたくさん。レグノリアでも、たくさん見たけど、こっちも、すげえたくさん」
レグノリアと言うのは、アルシュファイド王国、人の国の王が居る都だ。
今、ロムの父のアリウステイトは、連れ合いのサシャリヤと、人の国に行くに当たっての決め事を話し合い中だ。
そこに、数名の、おとなたちが加わって、子供の同伴についても話し合っているところだ。
ロムは、行きたかったけれど、おとなの話し合いには入っていけない。
「どうかしたか?元気ない?」
「ん。ううん。待ってるだけなのかなって、思ってさ…」
「なにを、まつんだ?」
「サキたちが、また来るの。また来るだろ?」
「ん…。わからない。今は、キリュウが、ジュールズたちと、はなれられないから、きてるんだ。また、ジュールズが行く時、キリュウがだいじょうぶなら、こない」
「えっ…」
ロムが、声を上げて、サキを見る。
自分を見るサキの顔が驚いていて、それから、ふっと、静かな目になるところが、見分けられた。
「おれたち、子供だから。したいことは、言えるけど、できないんだって、言われる時は、できないことなんだって、わかるから、言えない…言わない…うん…。わからないけど、言わないのがいいって、おもうんだ…」
ロムには、よく分からなかったけれど、今、サキが持っている悲しみを、どうにもできない自分は、いやだった。
「でも!そんな顔、したらだめだ!」
「え?」
驚いた顔のサキを、抱きしめる。
直接の接触はできないけれど、互いを守る膜が接触し合った部分に力を入れて、圧力を与えることはできる。
その圧力は、過度な負担がない程度に減じられることを、ロムは知らない。
どちらにせよ。
今、人の姿でよかった。
力が強くなくて、よかった。
その、相手を思いやる気持ちは、確かに、ここにあるもの。
「ロム?」
ロムは、ロム自身にできる理解をして、身を起こした。
「それは間違いだ!サキ!言わないのは、いいことじゃない!だって、いいことじゃないから、サキは苦しいんだ!」
サキには、そのロムの言葉が、正しいことかどうか、判断はできなかったけれど、自分の考えが間違いだという意見を、否定することもできなかった。
「ええと…」
「サキ!言おうよ!どうしたいって、言ってみよう!おれ、付いててやるからさ!」
「え、ええと…。と、ええと、あの、ジュールズが、またここにいくか、あ、くるか、わからないよ…?」
「え?」
ロムは、まずは、そこが重要なのかと、ようやく気付いて、一所懸命、考えた。
「う、うーん、うー…ん…。えっと、サキは、ここに来たくない?」
ロムにとっては、重要なのは、そこだ。
口にして、改めて感じる。
また来たいと、思ってもらえないのは、悲しい。
眉尻を下げるロムに、サキは慌てて、言った。
「きっ!きたいよ!きたい!」
ずいぶん慌てた声は、本気を感じさせて、ロムは、ほっと息をついた。
「そっか!よかった!」
にこにこ、笑って、あれ、なんか忘れてると、沈黙のあと、ロムは叫んだ。
「あ!だから、来たいって、言うんだよ!」
「え?でも、聞かれてないのに…」
「そんなこと!聞かれなくても、言いたいこと、言えばいい!」
「え?そ、そう?」
自己主張。
その言葉を、ふたりとも知らなかったけれど、少なくともロムは、そうしなさいと、言われて育った。
長じては、どこまでが、いいことか、悪いことか、その都度、教えられて、それはまだ、他者に教えられるほどには、判別と理解をできてはいないものの、第一声から、抑えることを、少なくともロムの両親は、よしとはしなかったのだ。
「そうだよ!だから、おれも言う!どうしたいって、言いに行く!」
立ち上がって、心を奮い立たせる。
駆け引きなんて知らない子供。
返される言葉が、拒否であったとしても、これは大事な、育ちの一歩。
踏み出す、その一歩が、子供には、何よりも、大事なこと。
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