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―休暇日ⅩⅣ 小休止―
あちらこちらで、多くの事柄が動いていて、収拾が付かないので、いっそ放置しようそうしよう、と思うジュールズだ。
だって、あっち方面はネイの管轄だもん。
退位しても政王の器、もういっそ、さあ…、浮島引っ括めてネイの領分でいんじゃね?
とか。
思ってみるけれど、分かっている。
そもそもの話、結界、いや、術、どちらでもいいが、継続などするなら、ミナは何らかの役割を受け持つことになる。
仮に、この浮島群を連合国としても、統領から協力要請が来るのだから。
まあ、だからこそ、今から関わることは、ミナの活動区域を都合よく整えやすいのかもしれない。
浮島側の体制が整っていない今、アルシュファイド王国側にしても、体制を構築中である今。
人材の徴集にしたって、こんなところに寄越すぐらいだから、それなりに使えないといけないわけで、つまりは、ここに居れば有能な人材に巡り合える望みが大きい…か?
暫し黙考。
ジュールズの表情の変化に、ファルセットは、そろそろ指示が来るかなと、乗っている浮遊籠から、周囲の状況を確かめる。
子供会合は白熱中。
同時に、おとな会合も、なかなかに活発なようで、最初は、浮島の者たちは数名だったはずだが、今では、2倍以上、たぶん3倍には増えている。
そうなると、同伴の子も居るので、子供会合の方に、入りたい子が入りやすいように、目立つ枠を取り付けて、出入口にした。
「もうこんな時間か。そろそろ湯を浴びねえとな。ん。ちょっと行くか」
ジュールズは、ファルセットも乗る浮遊籠を降下させて、おとなと子供の会合場が隣接する外廊下に降り立ち、おとな会合場に入ると、ネイに声を掛けた。
「なあ、いい時間だし、湯浴みに行こうぜ。子供たちも。したくない種なら、残ってもいいけど、歩いて渡れないこともないんじゃね?まあ、雨みたいに降ってくるとことか、難しいかもしれんけど、変更できるんだろ?」
「ん?ああ、そうだな。それじゃ、そうするか。なあ、みんな!そろそろ、湯でも浴びて、ひと休みしないか!疲れてるだろうし、違うことすると、考え方も変えられるしさ!続きは、改めて、また明日!まとめは、ここに書いてあるから、読めない文字は、横の彩玉鳥に読んでもらってくれ。じゃあ、子供たちを迎えに行こうぜ!」
「俺は、もうちっと、周り見てから行くからよ!隣は、こっちに、くっ付けてるから、一緒に持ってってくれ」
「ん。ああ、これごと移動な!キリュウたちは」
「あとで追い付くよ。ヘイン、悪いけど、いい?」
「ああ、もちろん!」
そうして、子供会合場にも寄って、子供にも同じように話し、キリュウたちには別で声掛けすると、ファルセットとレイネムと、まずは親睦会場として作った遊戯場に向かった。
まだまだ、遊んでいる者たちも多かったけれど、全体に声を届ける伝達管に向けて、食事前の湯浴みを提案し、食事は19時から配られると伝えた。
「アルシュファイドから来た者向けの分量もあるが、術で食べられない表示が出ないものは、食べられる!酒にも、同様の術が掛けてある。有害と思われる成分表示がされるから、問題ないと思うなら、飲食許容、と発言してくれ。用心のため、見守りの鳥が付いて回るが、決まった時間が過ぎたら、消えるからよ!」
面倒かもしれないが、口に入れるものだから、用心しようということで、一品一品、この術が掛けられている。
術を掛ける仕掛けは、菓子の型抜きのような門を設置し、指定の取っ手付き浮遊盆が通る毎に、術を掛けていくので、彩玉の力量不足に気を付ければ、あとは手順に従えばいい。
「自分用にって言って、調理場に置いてった食材は、本人のとこに飛んでくからよ、見逃してやってくれ!調理場を使いたければ、素材の受け入れは21時までだ!時間は知らせるから、間に合わなかったら、また、明日な!」
そのように伝えてから、周囲の様子を見ながら、その場を離れる。
次は、島全体に向けての通達がいいだろう。
発声用の彩石鳥を飛ばして、各所で止まり場を見付けたことを確かめ、発言する。
「緑嵐騎士ジュールズ・デボアだ!そろそろ、ひと休みしようぜ!宴の開始は、19時から!手を加えて欲しい食材があれば、中央の湖の木の後ろに、調理場があるからよ!21時までは、持ち込んでくれていいぜ!時間は知らせるから、持ってくのは、それまでな!寝場所は、島の南側に用意するからよ。子供の居場所は、ちゃんと確認しとけよ!」
こんなものかなと、頷いて、次はバルタ クィナールほか、各船の船長に順に伝達を通して諸事確認、最後にセスティオ・グォード中央の調理場に寄ってから、様子を見ると、大浴場に向かった。
中でキリュウたちと合流し、ゆったりと湯に浸かると、見上げた空には夕闇。
「はあ…。今日も濃い一日だったなあ…」
「まだ終わってないって、なんだか、言うだけ空しいような…」
ファルセットの言葉に、そちらを見る。
「疲れたか?」
「いや、確かに、こうして湯に浸かってると、弛緩して、疲れてたんだなって、思うけど、楽しいとか、そういう気持ちが大きくて。ただ、ほんと、色々あって、今はまだ、始めたばっかりなんだなって、うん。これからなんだって、ちょっと、大丈夫だろうかと。不安じゃないけど、ああ、そう、圧倒、されてる。情報量に、たぶん」
たくさん、たくさんのこと。
これから、全部を。
「それだけどさ、こっちに来る人材って、そこそこ有能だと思うのよ。彩石騎士の執行官とかに引き抜かねえ?従者補佐でもさ、これこれこういう人材が欲しいって、アークに言って、寄越させんのよ。これ、早い者勝ちと思うんだ」
「ヘ、それ…」
一瞬後、ファルセットは、その所業に大きく口を開ける。
「あんたなんてこと考え付くんだ!そんなこと実行したら、従者仲間に恨まれ…」
語尾が消える。
ファルセットは、常に無い速さで思考を回転させる。
それから、うほんと咳払いして、頷いた。
「ま、まあ、これもひとつの、巡り合わせと言うかね、なんかね」
「まあ、言い訳しても、勘繰られるのは覚悟だな」
「う、うーん…。そうですね…」
白剱騎士従者のキースとか、知られたら怖いけど、あとはまあ、なんとか?
「でだ!ミナには侍女が付いちまったが、支援隊にはほかにも、漠然とだが、交渉師入れるってことで、まあ、城内庁の総務かなって思ってたけど、交渉師は一番、配属部署が多いんだよね…」
「そう言えば、補給船のとか、えっと、騎士隊の?いや、財務省からの出向みたいなのでしたっけ」
「そう。財務省なら、損益、外務省なら、状況、産業省なら、資源、て感じで、得意項目が分かれてんのね。全部が全部、交渉師ってのも、差し障りあるかもだけど、各省庁からの引き抜き、すげえしたくなってきたの」
「いや、ただ、したいだけなんですか…まあいいや。でも、各部署の働きっていうのは、知りたいです。満遍無く呼べますか?」
「調査団としては無理だけど、すぐ帰国するしな。ネイの方は、全般、押さえないといけないからさ、しかも、来週にでも寄越してもらえると思うわけ。帰国したら、アルは居ないんだけど、早めに試験してさ、こっちに来てるのと換えてもらいたいほど合う奴が居るんなら、そういう選抜もしてみようかっていう」
「うーん…。それ、配置交換って、角が立ちそう…」
「んじゃ、手っ取り早く捕獲すっか!」
「ちょっと、あんまり過激なこと…でも、そうですね。ジュールズの我が儘は、なんか、諦めてくれそう」
「それもどうよ。でも、楽しそうじゃねえの」
「でもですよ、無理にこっちで探さなくても、それこそ巡り合わせ、でしょう?どうしても引き抜きたい人だけ、えーと、なんか、色々して、そうだ、むしろ、これ以上、こっちに呼び寄せるの、止めませんか。そっちの方が面倒少ない」
「お!お前も、そこそこの悪よのう!」
「いや、嬉しくないし、そこそこって何、そこそこって」
「ししし!んじゃ、そういうことで、シィンを共犯にしてやる!」
「はっは。そのうち、なんかされますよ、なんか」
「俺様を脅すとは、いい度胸だ!」
「わわわわ!ちょっと、ほかの人に迷惑だから!暴れないで!いや、暴れさせないで!」
そんな遣り取りがあったり。
賑やかな大浴場では、多くの声が、笑い声が、満ちていく。
それを聞く者たちの思いは、多様で。
たくさんの思いが、ひとつひとつ、重なって、深まって、いく。
まるで、夜に向かう、天の色のように。
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