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接触
―移し身―
浮沈集合島カサルシエラは、現在、浮沈の周期を一週間ごとに繰り返し、年の始めの零の月10日間は全島浮上しており、その後、1月1日の暁の日から、浮沈の周期が戻る。
「はあー、困った、困った、困ったなあ」
しょんぼりと頭を下げて歩く狼が、ふうと息を吐いて空を見上げた。
白銀の月は健在だが、もはや何の安心材料でもないことを、知ってしまった。
…大丈夫。きっと、助けてくれるわ…
アルトリーデの最後の言葉。
でも、あれから、この島に漂着した人々は、けして、彼ら水竜にとって、よき者とは、ならなかった。
双神が与えてくれた、この移し身で、何度血を流したことだろう。
命までは奪わなかった。
けれど、分かり切っている。
こんな沖で、何もない海に放り出せば、あんな小さな人なんて、生きてなんていられない。
それでも、ここには置いておけなかったし。
島は、彼らに許さなかった。
二度もこの地を踏むことを。
けれど、その術が、もうすぐ、消えてしまう。
そうしたら。
そうしたら。
苦しい思いが、足を止めさせる。
移し身の狼の目から、そして。
ここより遠い場所で眠る、自身の目から。
ぽろり、ぽろりと、落ちては染みる。
土の色を変える、雫たち。
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