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―水竜ボールトーガ―
その変化は、小さなものだった。
この世界では、どの生き物でもそうだが、体の割に目が小さい。
尤も、水竜最大のボールトーガともなれば、人の体の、肘から、伸ばした指の先までの長さが、横たわっているのだけれども。
その、真っ黒な瞳が開かれた時、ちょうど近くを通っていた深海の魚が、慌てたように泳ぎ去った。
久し振りの食事には、ちょうどよかったけれど、それよりもまず、水を飲まなければ。
巨体を揺すって、身体の様子を確かめる。
しばらく…いや、とてもとても長い年月を、同じ体勢で過ごしたので、少し痺れるような感覚があるけれど、動かしていると、すぐに消えた。
「サリーナ、起きたか」
言葉を発すると、遠くから水の振動が伝わってくる。
少し時間を置いて、声が聞こえた。
「ああ、ゼン、その前に水を」
「そうだな。キリ、サリーナ、一先ず顔を出そう」
応じる声がふたつ。
ゼンと呼ばれた者は、ゆっくりと、自分の体を這わせて進み、やがて海水の中に入ると、ゆっくりと浮上した。
その途中、遠くから、こちらに向かう影があるのに気付き、あちらも問題なさそうだと、安心する。
ゆっくりと浮上した彼ら3頭の水竜ボールトーガは、海面に体の半分を出すと、頭から大量の水を浴び、口を開けて、体の中に流し入れた。
「ああ、やっと一息つけた」
暁月の輝きが落ちるなか、ヴェルサリーナが声を上げる。
ゼニーリスカイは、ほかの2頭を見て、さて、と始まりの合図を出す。
「色々と話し合わなければならないが、その前に」
「食うもんを食うことだな」
キリシテアルルーガの言葉に、2頭は同意した。
「手早く済ませよう。よつだけでは手狭だ」
「まあ、3島も広くはないけれど!」
「さあ、行こう!言っている間に!」
「承知」
「承知」
「ああ、忙しない…」
そんな言葉を、あとに残して、3頭は再び、海中に姿を消した。
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