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少年との出会い
声がした方を振り向くと、そこには小さな少年が立っていた。
眼鏡をかけた気の弱そうな、小学校3~5年生ぐらいの少年だ。
が、見た目と中身が違うのはすぐに分かった。
何故なら、彼は見も知らぬ大人の僕に声を掛けてきたからだ。
僕が子供の頃、こんな事が出来る勇気があったか?
答えは『ノー』だ。
だから僕は、この少年に一目置く事にした。
ものすごい勇気と度胸があったからだ。
「この化石だけど、持って帰って良いのかな?」
と僕は尋ねた。
「はい。大丈夫です」
と彼は答え、さらに、
「これが良いんじゃ無いかな?」
と言って、わざわざ僕のために化石を選んでくれた。
が、それは持ち帰るには少し大きすぎた。
なので、僕はその事を素直に話し、結局別の化石を持って帰る事にした。
その化石を、そばにあった新聞紙で包んで(もしかしたら、その少年が包んでくれたかも知れない。僕は新聞紙を使っていいなんて知らなかったので。ここも少し記憶が曖昧だ)、持っていた袋にしまってから僕は尋ねた。
「ここの事、詳しいんだね?」と。
するとその少年は、「もう何度も来ていますから」と答えた。
さらに、「でも、僕なんかよりもずっと詳しいのがいます。あっ!ちょうど
来ました!」と言って指を指した。
指を指した方を見ると、そこは入り口で、ちょうど少年が二人入ってくる所だった(ちなみに、こちらの少年はパッと見た感じ、女の子にモテそうなタイプだった)。
そうか。
この少年にとって、彼はライバルなんだ。
なのに、自分よりもライバルをしっかり立てている。これはすごい。
この少年は相当出来ると思った。
この少年には、一目置くぐらいでは全然足りなかった。
この少年を育てた両親もきっと鼻が高いだろう。
もし僕がこの子の親だったら、間違いなくそう思うから。
そして、少年達の関係性が羨ましかった。
僕が小学生の時にライバルがいなかった訳じゃない。
だが、レベルが違いすぎた。
こっちが勝手にライバル視しているに過ぎなかったのだ。
彼らの関係性をもっと見ていたかったが、僕には時間が無い。
なので、「色々ありがとうね」と、その少年にお礼を言った。
少年は「あ、いえ・・」と、少し照れたような仕草を見せた。
それを見てから、僕は葛生化石館を後にした。
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