あと一歩届いていれば

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あと一歩届いていれば

ハイボールをコップに注ぐ そこではたと気づく 炭酸水はどこだ? さっきまであったペットボトルの炭酸水に手を伸ばす あと数センチ届かない 「っ!」 あの瞬間を思い出して振り払うように腕を薙ぎ払った カランカランと空になっていたボトルは床へと転がっていく それでも感情は静まらずハイボールへと手を伸ばす はずだった あったはずのコッブは宙へとジャンプした 「飲みすぎだ これで何杯めだと思ってる バカが」 カウンターから新太の声が降り注ぐ 「うるさい 寄越せ」 半ば強引にそいつを奪い返し胃に注ぎ込む 感じるのはアルコールの匂い 新太は呆れたように「それで最後だ」とハイボールのボトルを取り上げ元の位置に戻す 「ところで信司? 今日の納骨式には行ったんだよな?」 「いや行ってない」 「あ?なんでだよ 呼ばれてはいたんだろう?」 確かに呼ばれてはいた 叶に親はいなかったから母方の叔母さんからだったけど 「行きたくない 骨になった彼女なんて見たくない」 それが本音じゃないことはわかってる 未だに彼女が生きていることを心のどこかで望んでいる 「信司くんいる?」 「あ?」 つい反射的に声のした入口に顔を向ける 頭が回らない 誰かはわかってる彼女の親友だ えっと名前は 「いらっしゃい 詩織 何か飲むかい? 」 「前作ってくれたアレちょうだい アリーヴェデルチだったかしら」 なんだそれ ジョジョかよ 俺もと右手をあげてみるが「適当に創作した奴だ客に出すもんじゃあない」とあしらわれる
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