あと一歩届いていれば

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タクシーを降りてアパートの前で降りると冷たい風が肌を突き刺すように通り過ぎていく 千鳥足で震えながら階段を登っていく 「帰ったら煙草でも吸うか」と心の中で思いながら転ばぬよう慎重に登るうちに気づくと部屋の前にいた 鍵を開けて部屋に転がり込む 座ったまま鍵をかけると足に力が入らないことに気づいた 「ありゃ? まあいいか」 咄嗟の独り言も出るくらいにはアルコールが回ってきたらしい 仕方なく這ってベランダまで行くもポケットに入った何かが腹に刺さった 「なんだこれ?」 入っていたのは小さなオルゴール 自分のではない だがいつ貰ったか覚えてもいない 気になって煙草に火をつけながらも新太に電話をかける 「さっき詩織から預かったやつだろ 叶ちゃんからの思い出のオルゴールって」 叶の名前を聞いてつい反射的にスマホをベットに投げた 何も考えずネジを回し音を流す なんだろう 音が流れる度に瞼が重くなる どんな曲だったか思い出せぬままに目を閉じる 咄嗟に煙草の火を消し灰皿に置く このまま微睡みに身を任せれば恐らく心地よく寝れるだろう 今の俺にこれを拒否する理由はなかった なかったはずなのだ なのにと最後に聞こえた気がした
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