ただ、あの壇上に登りたいだけだった

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 シャープペンシルを握りこむ手が力みすぎて、ペン先がぽきりと折れた。まっさらな白いノートに、今しがた折れた芯が虫の死骸のように転がる。  思い浮かばない。思い浮かばない。思い浮かばない。  なんの進捗もないままに、夏休みが終わってしまった。校内で行われる文芸コンクールの締切まで、あと二週間しかない。  クーラーが効いた涼しい図書室の中、顔に汗を滲ませているのは私ぐらいだ。  あんなにたっぷりと暇な時間があったはずなのに、書きはじめられていないどころか、テーマすら思いついていない。書きたい気持ちは人一倍強いはずなのに、どうして。なんで、こんなにも思い浮かばないの。  べつに、文芸コンクールに参加しなくたって死にやしない。そもそも参加必須じゃないから、文章に自信のある学生だけが挑むものだ。大抵の生徒にとっては他人事で、どうでもいい行事なのだろう。  だけど、私はどうしても参加したい。  参加して、今年こそはなんとしてでも結果を出したかった。この文芸コンクールが開催されるからこそ、今の高校を選んだといっても過言ではない。  文芸コンクールにおいて結果を出して、体育館の壇上の上に立ち、表彰されること。それだけが、ほとんど空気と変わらないレベルに存在感の薄い私が、クラスのみんなを見返す唯一のチャンスなのだ。  私には文才がある。  中学時代、国語の成績だけは常に最高評価だった。読書感想のコンクールで優秀賞に選ばれたことだってある。  本当だったら去年の文芸コンクールで結果を出し、高校のみんなから一目置かれるのは私のはずだった。    それなのに。  一年前に結果を出したのは私ではなく、その瞬間まで親友だと思っていた詩織(しおり)だった。
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