ただ、あの壇上に登りたいだけだった

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 文芸コンクールの結果発表があったあの日から、夜もまともに眠れない日々が続いた。  誰かに『虹のイルカ』を読んで面白かったと褒められるたびに、顔から火が噴き出しそうなほどの屈辱的な気持ちに襲われた。  そして、何よりも恐ろしかったのは、いつか詩織がすべてを暴露して、私の罪を白日の下に晒すのではないかということだった。  あの結果発表があった日から一ヵ月後。  放課後、図書室に向かおうとして廊下を歩いていた時、私が恐れていたことがついに起こってしまった。 「あっ、ふみちゃんだ! 久しぶりだね」  詩織から呑気そうに声をかけられた時、眩暈がして、息が浅くなった。  なんで?  どうして詩織は私に対してへらへら笑えるの。  「なんで、平気そうにするの……? ほんとは、私に怒ってるんでしょ」  一度滑り出た思いは止まらない。 「人のアイディアを盗んでまで受賞したかったなんて浅ましいって、蔑んでるんでしょ……! 私のこと、見下してるんでしょ! なのに、なんで怒らないの!? 本当は、今年もあの壇上に上がるべきはわたしだったのにって思ってるんでしょ!!」  火花みたいに、口から激しい言葉が弾け飛ぶ。全身を震わせながら、得体の知れないかつての友人を睨みつけた。  だけど。  彼女はきょとんと瞳を瞬かせた後、ゆっくりと首を傾げた。 「どうして怒らないの? って、そんなの簡単だよ。だって、怒る必要がないんだもの」  絶句した。
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