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「……ギフトラッピングされた包みと、手紙が一通と、細長いプラスチックの二つ折りのファイルが入ってるんですけど」
「プレゼントとファンレターとチケットホルダー」をなるべく無難な言葉に変換する。
でも特に反応はなし。
「えっと……プラスチックのファイルの中身は舞台のチケットです」
もう少しだけ、自意識過剰にならない程度の情報を追加する。
すると、カウンターの向こうに立つ女の人は何かを考えるように口をとがらせた。
「……もう少し詳しく教えていただけないでしょうか?」
ムカッとした感情が湧く。
こいつ、試そうとでも?
周りのテーブルに着いた人たちは各々が注文したランチセットやドリンクに夢中で、日曜とは言え、中途半端な昼下がりの時間だからなのか、そんなに人数は多くない。
カウンターの前には列もできてない。せめてこの店員さんを急かす要素があれば、さっさと終わらせて接客に入らないといけないでしょ、とプレッシャーかけられるのに。
駅構内なんだしさ、もう少しみんな使ってよ。
「ご本人様が受け取りに来たと確かめられないとお渡しするわけにも行きませんので」
「……詳しく?」
「はい」
あたしは言葉に詰まった。
何か……やだ。詳しく説明しないといけない、この状況がやだ。
一生の不覚だ……今日だけはプレゼントがあるからってチケットとお手紙とまとめて同じ紙袋に入れようと思ったのが間違いだった。
最高に素晴らしい公演の千秋楽を観に、早めに家を出て。
ここで昼食なのか夕食なのかわからない食事を取って、満足してうきうきしながら会場に向かおうと店を出て、駅へ向かう途中で妙に手が空いてる気がして。
そこで、バッグと別のあの紙袋がないのに気づいて、慌てて戻ってきて。
結果、今、このちょっと恥ずかしい落し物? 忘れ物? ――どっちでもいいけど――を取り返そうと駆け引きに身を投じている。
詳しく教えて、ね。
「……たとえば、何ですか?」
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