挑発

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挑発

「そうですね……チケットの紙面に書いてある内容……たとえば席の番号とか、ですかね?」  ほら、本当の持ち主なら覚えてるでしょ?  目の前の彼女はぐっと言葉に詰まったように唇をきゅっと結んだ。  慎重にはなるでしょうよ。  だって、チャンスは一回、間違えたらなりすまし扱いされて返してもらえないかもしれないものね。  そんな意地悪な思考は毛ほども出さず、ファンでも何でもない、何も知らない人のつもりで、素直そうに言ってみる。  見るからのこのぎこちなさからして、彼女はまだ沼に片足突っ込んでる段階で、周りを気にせずハマりきることをまだ知らない。  だから窮地に陥ると、オタクぶりを見せるのをつい恥ずかしく思って、もじもじする。  だから、趣味仲間と思ってない私や、他の客や店員にバレるのが、単純に、なんとなく、嫌。  そうでしょう?  私はチケットは取れたのに休みが取れなかったせいで行けない、今日の千秋楽を観に行くあなた。
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