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小型除雪車が雪を吐き出す、左右の雪壁は2メートルを超えていた。
汗をかきながら私はハンドルを握り重い車体を前へと進める。
「…助かるね。呼んだ甲斐があったってもんだよ。」
旧家の広い土間、老婆は熱い豚汁を椀に注ぎ私に渡す。
「村の雪下ろしは大変だからね。」
老婆は私の持つバインダーの書類にポンと判子をつく。
名簿には家名と押された判が並んでいた。
…大変な仕事だが村人の感謝はある。雪下ろしをする私のリュックには村人たちの施しである野菜や食べ物がぎっしりと詰まっていた。
(だがこの仕事はいつから始めたのだろう?)
雪の壁をシャベルで削っていると、不意に何かに突き当たる。
雪を払ってみれば、それは車の窓ガラス。
中を覗けば座席の上に仕事鞄…そして住所と名前の書かれた一枚のメモ。
『ここに書いた事を決して忘れるな』
その筆跡は私の字とよく似ていた。
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