スイーツブッフェ・リベンジ

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 老舗ホテルのスイーツブッフェ。クリスマスを先取りした店内は、赤や緑に彩られ、子供の頃のワクワクした気持ちを思い出させる。  それでも大人な俺たちは、グラスに注がれたウェルカムシャンパンを掲げた。 「付き合って1年、おめでとう」 「違うよ。1年と8ヶ月、でしょ?」 「え?」  俺はシャンパンを掲げたまま固まった。 「私たちが出会ったのは、桜の季節。でしょ?」  尚も動けない俺に向かって、彼女はにこやかに話続ける。 「さっき、待ち合わせの場所で走ってたときに思ったの。私があのとき走って会いたかったのは、きっと雄嗣だったんだって。そしたら、記憶が急に溢れてきて……。今日ここに来たのだって、去年の約束を果たすためだったんで…………雄嗣?」  彼女の瞳が心配そうに俺の顔を覗き込む。 「どうして泣いてるの?」  言われて気がついた。頬を伝う冷たいその存在に。 「あはは、涙ほど雄嗣に似合わないものはないね」 「わ、笑うな!」  俺はシャンパンを持つ手と反対の手で、目元をごしごしと拭った。 「珍しいから写真でも……」 「やめろ」 「あははっ! ねぇ、雄嗣……」 「ああ゛?」  スマホを構えている佳英に思わず睨みをきかせたけれど、目の前にいたのははにかみながらモゴモゴと口を動かす彼女で。 「……忘れてごめんね。それでも、また一緒にいてくれてありがとう」 「当たり前だろ、俺は……」  口を開いたら思ったより涙声で、俺は口ごもった。  佳英は俺のシャンパングラスに無理矢理自分のグラスを合わせた。 「なんだかよく分からないけど、乾杯っ!」  佳英は早口で言う。 「ほら、早く行かないと……またお皿てんこ盛りのケーキ、食べるんでしょ?」 「ああ……」  佳英は立ち上がる。そのままブッフェコーナーへ向かおうとする彼女の腕を、掴んでいた。 「え?」  俺はそのまま彼女を腕の中に抱き寄せた。 「……おかえり、佳英」 「…………ただいま」  彼女の手が控えめに俺の背中に回る。  幸せだと思っていた。だけど、俺はもっともっと幸せになった。 「ありがとう……好きだ、佳英」 「うん……あの、さ」  佳英の手が軽く俺の背中を叩いた。 「スイーツ、取りに行こ?」  その声で俺は我に返った。腕を解くと、佳英はふいっと背を向けて足早にブッフェコーナーへ向かっていく。  俺は席についてシャンパンを一気に喉に流し込んだ。頬が熱くなったのは、きっと酒のせいだ。  横目でチラリとブッフェコーナーを見ると、楽しそうにマカロンを皿に乗せる佳英。  1年8ヶ月という、中途半端なこの日が、俺たちにとってかけがえのない大切な記念日になった。
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