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昼間だというのに、病室の中は薄暗かった。目の前には、目を閉じたままの佳英の姿。
「そーんなずっと側にいたって仕方ないんじゃない?」
「…………」
会社の同僚で彼女とも面識のある颯斗は、俺の肩に手を置いた。
俺は何も出来なかった。嬉しそうに小走りで掛けてくる彼女が、そのまま俺のもとにくるとばかり思っていた。
それなのに……
目の前で助けられなかった自分が嫌になる。誰も俺を責めたりしないけれど、その事実がまた俺を惨めにする。
「佳英……」
俺は愛しいその頬をそっと撫でた。温かくて柔らかくて、確かにそこにいるのに、とても遠くに感じた。
「はぁ……まあ、勝手にしてよね」
颯斗がそう言った瞬間だった。
「…………?」
彼女の双眼がゆっくりと開く。
「佳英!」
自責の念に駆られていた俺は、それだけでほっと息をついた。颯斗は医者を呼んでくると病室を出ていった。
「ここは?」
「病院」
ぼうっとした様子の佳英だったが、それでも彼女が目を開けていてくれるだけで嬉しかった。それを悟られるのは恥ずかしくて、俺はわざとぶっきらぼうに返した。
「確か……私走ってて、そしたら体に衝撃があって……で、倒れて?」
「ああ、それで運ばれた」
「そうなんだ……ところで」
佳英は不思議そうな顔で俺を見つめる。
「あなた、どちら様?」
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