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颯斗と共に病室を出てきた。ご両親が来て、部屋の隅に追いやられた俺たちは、たまたま通りかかった同じマンションの住人と化してしまったのだ。
彼女は俺のことだけ、綺麗さっぱり記憶から抜け落ちてしまっていた。医師を連れてきた颯斗は覚えていたのに。
「ああ、お隣の!」
そう言って彼女が向けた笑みの先は、俺じゃなくて颯斗だった。無機質な廊下で、俺は溜め息を溢した。
「佳英ちゃん、こいつ反対の隣の部屋の……」
「あれ、そうでしたっけ?」
先程の会話が頭の中で反復して、発狂しそうになる。
「とりあえず、俺たちに出来ることは今はないんだからさ、帰ろう?」
俺はそのまま颯斗に背中を引き摺られて家路についた。
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