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仕事終わりに寄ったのは、人で溢れたカフェ。キャラメルモンブランラテを頼むと、俺はキョロキョロとその姿を探した。
「……!」
ベージュのトレンチコートを椅子の背にかけ、カップに口をつけ幸せそうに微笑む彼女を見つけた。俺は迷わず、そこに向かっていく。
「よ」
「伊達さん! それ、もしかして……」
「ああ、キャラメルモンブランラテ」
「ははっ、やっぱり」
「なあ、相席いいか? 他空いてなくて……」
「どうぞ」
俺は彼女の前に腰かけた。だが、何を話していいかも分からない。パニックで固まっていると、彼女が口を開いた。
「今朝はありがとうございました」
「え? ……ああ、チョコか」
「あのあと、他のコンビニで見つけて。会えたら渡そうと思ってたんです」
佳英は鞄からマロン味の口どけチョコを取り出した。
「はい、どうぞ」
目の前のテーブルに置かれた、コンビニの袋チョコ。
佳英はやっぱり佳英だ。律儀に、お礼だのお返しだの言って渡してくる。
「なぁ、俺らさぁ……」
「?」
「いや、やっぱり何でもない」
思わず口から飛び出してしまいそうになった言葉を、無理矢理喉の奥に押し込んだ。
付き合ってたんだ、なんて、言えない。
その想いを押し流すように、無理矢理キャラメルモンブランラテを口に運んだ。甘いはずのそれが、少し苦く感じた。
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