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病院を出られたのは、すっかり空が暗くなってからだった。
一月の身を斬るような冷たい風が強く吹き荒んでいた。おまけにまた雪が降り出していて、これはきっと積もるだろうなと思った。
「ごめんな、こんな時間まで付き合わせて」
もう昼飯の時間もとっくに過ぎてしまったのに、有澤はずっと付き添っていてくれた。大学もサボらせてしまって申し訳ない。
大きな借りができたなぁ、なんて思った。もしひとりだったらと考えると恐ろしい。
「いいよ、これくらい。なんて事ないよ」
「そっか、ありがとな。そういや合コンいつもの時間だよな…今から行けば間に合いそうだな。俺はキャンセルするけど、有澤は行くだろ?」
外来受付の終わった人気のない病院の正面玄関で、仕方ないからタクシーで帰ろうかと考えてながら尋ねる。
有澤は、さっきからずっと黙ったままだった。
「おーい、有澤?早く行かないと、っても雪降ってるけどさ、遅れちゃうよ?」
振り返って顔を見た。
なんで、泣いてんの?
泣きたいのは俺の方だよ。
「律……行けないよ、俺」
「なんで?」
「だって、律のこと、放って行けない」
有澤は端正な顔をぐちゃぐちゃに歪めて、ボロボロと涙をこぼしていた。俺よりも幾分も高い位置にある顔を見上げて、その涙をどうしようかと考える。
有澤と違って、俺はハンカチを持ち歩いたりするような男じゃない。まあ、有澤のハンカチは下心の道具なんだけど。
「合コンなんてクソみたいな遊びよりお前の方が大事だ」
「クソって……」
「俺に何かできる事ない?なんでもする。お前のためにならなんだってする!!」
とてもありがたい話だ。有澤は友達としては、本当にいい奴だ。
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