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俺は今、とある病院で看護師をしている。律が死んでから色々あって看護学校に入ったのだ。そして、偶然にも同じ学年に、律の妹の愛香がいた。
多分、俺たちは後悔していた。
あの時、もっと何かできる事があったんじゃないかとか、もっと律の気持ちを理解してやることができたんじゃないか、と。
まあ、そんな単純な理由で、今の職についたわけだけど。
そこでまた、色々あったわけで。
あれから十年。
俺には今、愛香との間に二人子どもがいる。
ひとりはまだ愛香のお腹の中。もう一人は、本日三歳の七五三を終えたところだった。
そんな今日は、律の命日でもあった。
だから久しぶりにみんなで集まろうという話になったので、俺はこうして、律の実家にきたのである。
「パパぁ…」
俺の背後に隠れていた娘の結が、ふぁあと小さなあくびをこぼす。朝早くに衣装を着付けてもらったからか、とても眠そうだ。
「結、おじさんたちに挨拶しなさい」
今更か、とは思うが、一応娘を前に押しやる。優希さんとその奥さんがニコニコと結に微笑みかける。だけど結は人見知りで、いつも打ち解けるのに時間がかかる。
「すみません…」
「大丈夫だよ。まだ三歳だもんねぇ」
「人見知りなんて一時的なものよ」
優希さんと優希さんの奥さんには子どもはいない。理由は聞いた事ないけれど、二人ともキャリアだし、忙しいのかもしれない。
その代わりのように、二人は結をとても可愛がってくれるのだが、当の本人がこんな調子だから、いつも申し訳なくなってしまう。
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