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また俺の背後に隠れてしまった結に、俺は苦笑いをこぼした。
「健くん、本当に気にしていないから、君もどうぞ寛いで」
優希さんが気を遣ってくれて、俺はまた少し申し訳なく思いながら、勧められた椅子に腰掛けようとして、そういえばと思い出す。
今日は律の命日だ。先に挨拶してやらないとな。
「俺、先に律の顔見てきます」
「ああ、そうだな。きっと律も結の顔を見たいだろう」
俺は結を連れてリビングの奥の和室へと向かった。
十年も前なんだな、と思うと、なんとなく感慨深い。
大学へ入学して、新しい土地での生活を始めた頃、俺は律と出逢った。
同じ学部で殆どの講義が被っていて、いつの間にかよく話すようになって。
いつもどこかつまらなそうなヤツだなと思っていた。日々惰性で生きているという点で、俺と似ているなとも思った。
だけど時々、とても良い顔で笑うのだ。
そこに惹かれた。
俺はクズな人間で、その頃はホント、バカみたいに遊びまくっていた。だからその延長線上で誘ってみたら、最後の最後で拒否られた。
あれはあれで良い思い出だ。その頃俺が抱いていた自信をへし折ってくれたのだ。
だからというか、余計に律を好きになった。どうしてそんなに好きなんだと自分でも訳がわからなかったけど、多分律もそれをわかっていて、俺には応えてくれなかったんだと思う。
俺と律は似ている。漠然とそう思っていた。
でも実際は、律は俺よりスゴいヤツだった。
病気になってからの律は、きっと俺にはわからない葛藤や恐怖、悲嘆を抱えていただろう。それでも懸命に生きていた。こんな事を言うのは失礼かもしれないけれど、病気になってからの方が生き生きとしていたかもしれない。
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