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優希さんのひとことで、そこから律の思い出話に花が咲く。
律が死んでからしばらくは、誰も触れないようにしていたけれど、十年もたてばそんなこともなくなって。
今では共通の話題として、律のことを話しながら食事をすることも多い。
あいつが聞いていたら、顔を真っ赤にして怒りそうな話題が続いたあと、ふと気付くと結の姿がなかった。
食事に飽きて、和室にでも行ったのだろう。そこには頼子さんと正行さんが孫のためにと買ったおもちゃがたくさんあるから。
「それにしても、結ももう三歳なのね。お腹の子は、女の子?男の子?」
頼子さんが笑顔で愛香の大きなお腹を撫でる。愛香はまだ青い顔をしているけれど、愛おしそうに表情を緩めて答えた。
「男の子よ。優兄みたいな優秀な子になって欲しいなぁ」
「まるで律みたいになるなって言ってるみたいだろ」
俺が笑ってそう言うと、愛香は俺の膝を叩いた。
「違うわよ!健くんみたいになったら嫌だって思ったの!!」
「えっ!?」
酷い!と傷付いた顔をして見せる。みんなが声を出して笑った。
この暖かい空間を、俺にくれた律に感謝しなければな、としみじみ思っていると、和室から結が顔を出した。
「結?どうした?」
結は時間が経って慣れてきたのか、笑顔を浮かべている。
「あのね、パパ」
「ん?」
みんなが結の方を見た。
「お兄ちゃんがね、おめでとうって言ってって」
「え?」
何の話だと結を見れば、なんだか嬉しそうに笑っている。
「あとね、ありさわはバカだけどいいやつなんだって」
「結…?」
「おはなしいっぱいしてくれたの。それでね、これ、くれたの」
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