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結がとてとてと歩いて、俺と愛香の間に座る。その手には、可愛らしいフォルムの狐のキーホルダーがあった。
「お守りに、くれたの。さっき、あっちのへやで」
思わず立ち上がった俺は、慌てて和室へと飛び込んだ。
そこに律のいた痕跡は、もうない。ただ仏壇に、写真があるだけだ。
「しゃしんのお兄ちゃん、パパのおともだち?」
律はやっぱり、俺たちのそばにいる。見守ってくれているようだ。
俺は結に視線を合わせるように膝をついた。そして、小さくて暖かい体を抱きしめる。
「あのお兄ちゃんはな、ママのお兄ちゃんで、パパの一番の友達なんだよ。きっと結のことが可愛くて、会いにきてくれたんだな」
涙が出そうだった。でも、子どもの前で、無様に泣いてやるものかと、変なプライドが邪魔をして。
代わりに俺は言ってやった。
「なんだよ、律のヤツ。俺にも顔見せろっての」
今でも思い出せる。
律の顔を。笑った時の、花火のような明るい笑顔を。
家族にも、律みたいに笑っていて欲しい。
だから俺は頑張ってんだよ。律に言われなくたって、頑張ってんだよ。
お前の代わりにはなれないけれど、俺はお前の大事にしていたこの家の人を、お前の分まで守るよ。幸せにするよ。
だから、律もどうか、幸せでいてくれよ。
完
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