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それから数日経ち、俺は今病院にいる。
「もー、後で昼飯奢れよ」
「ごめんって」
大学近くの大きな病院だ。受付を済ませて、自分の番が来るのを、ベンチに座って待っているわけだ。
隣にはいつもの友人がいる。俺のケツを狙っている、有澤だ。明るい茶髪にほっそりした顎の背の高いオシャレなイケメンだけど、色々遊んでいると噂の残念な奴だ。
実際のところ男女問わずオモテになるようで、俺を誘ったのもそんな遊びの延長線上だった。
ただ友人としてはめちゃくちゃいい奴なので、有澤のことは気に入っている。
「まさかあんなとこで転けるとはおもわねぇよ…どうしたんだ?」
有澤は訝し気な顔をしている。当然だ。俺はさっき大学の講義室で、みんなの前で盛大にすっ転び、机の角に頭を打って血を垂れ流した。
何もないところで転んだ俺を見ていた学生らが軽く悲鳴を上げ、気付いた有澤が助けてくれた。持っていたハンカチで額の傷を抑え、そのまま病院まで付き添ってくれたというのがこれまでの経緯だ。
頭の血はなかなか止まらないというけれど、確かにその通りで、有澤のハンカチも手も血だらけだった。
「わからん…最近よく転ける。もともと鈍臭いんだけど、最近のはホントよくわからん」
「ああ、見るからに鈍臭そうだよな、律」
妙に納得した顔の有澤だ。失礼な奴。でも助けて貰ったのだから、彼の言うように昼飯くらい奢ってやろう。
「これじゃあ今日の飲み会もキャンセルだなぁ。俺は行くけどさ」
「へいへい、精々楽しんでこいよ」
「そんな顔しなくても、記念すべき100人目はお前だよ」
「はあ?」
有澤がニヤリと笑う。整った顔に、残念な笑みだ。
「100人目の男は律って決めんの。女はノーカンで」
「本気で言ってる?」
「もちろん」
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