第一話 発覚

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 俺は呆れてため息も出なかった。  有澤はいわゆるヤリチンというやつで、男女問わずワンナイトラブを楽しんでいる。バカみたいな話だけど、今までヤった人数を数えているのだ。  男何人、女何人と。  その記念すべき男100人目は、なんでか俺がいいらしい。 「もしかして、あの日から男とはヤってないの?」  あの日というのは、つい3ヶ月ほど前の合コンで、酔っ払った有澤が俺をホテルに連れ込んだ日のことだ。 「そうだよ。俺とホテルまで行って、ヤらなかったのはお前だけだ。傷付いたよ」 「いや、そうは言っても」  俺は確かにゲイかもだけど。有澤は友達だし。初めてだし。そりゃ緊張してしまったわけで。 「だからさ、俺の記念すべき男100人目は律って決めてんの」 「いやなんだけど」  ショック!という顔をする有澤が何か言う前に、「中村律さん」と名前を呼ばれてホッとした。  診察室にはまだ若そうな男の医師がいて、優し気な顔で「どうぞ」と椅子を進めてくれた。背後に控えた女性看護師は、どう考えても有澤を見つめている。 「転んで頭を切ったの?」  有澤と2人がかりで抑えていたハンカチを取ると、どうやら血は止まっているようだった。医師が立ち上がって傷口を熱心に観察する。 「はい。大学の講義室で。あの、縫ったりとかしなきゃダメですか?」  ビクつきながら尋ねると、医師はニッコリ微笑んで首を振った。 「そんなに怯えなくても大丈夫。これなら縫う必要はないよ」  思わず肩から力が抜けた。  恥ずかしながら俺は痛いのが苦手だ。血を見るのも、できることなら避けたい。
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