エピローグ

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 「今日は来てくれてありがとうね」  だいぶ年季のいった一軒家の玄関を開け、室内へと足を踏み入れる。  昔と変わらない、まるで実家にいるような匂いがする。とはいっても、今年の初めにリフォームをしているから、外観とはそぐわない傷のない綺麗なフローリングや、張り替えた畳の匂いなんかがするので、今感じた匂いはただの雰囲気の問題である。  遠慮なくリビングへと足を進めると、そこにはすでに人が集まっていた。 「あ、随分久しぶりだな!元気にしていたか?」  その中から、背の高い真面目そうな男が話しかけてくる。 「はい、まあ、それなりに」 「ハハハ、どうした?何かあった?」  言葉尻を濁す俺に、その人は快活に笑いながらも、話を聞くよと促してくれる。 「それが、愛香のつわりが酷くて…今も頼子さんとトイレに……」 「ああ、なるほど」  ふむ、とひとつ頷いて、その人、律の兄である優希は力ない笑みをこぼした。 「もう二人目か…俺と違って、愛香は親孝行だなぁ」 「いやいや、優希さんだって十分親孝行じゃないですか。また昇進したって聞きましたよ」 「まあね。でも、たいして給料があがるわけじゃないのに、仕事ばっかり増えてさ。今日だって有給もぎ取るのに先週は残業続きだった」  俺より六つ歳上の優希さんは、大手の証券会社に勤めている。昔から優秀な人で、確かそれを、律はうんざりしたような、でも誇らしいような顔で語っていたっけ。 「君はどう?仕事大変?」 「まあ、ボチボチです」 「そっか。しかしまあ、二人揃って考える事が同じで驚いたよ」 「ハハ、そうですね」
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