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次に競技用の習熟に入った。この義足のカーボン製の板バネ部分だけは、人間の足としては違和感があるけど、このバネの力で高速に走る事が出来る。ただ私は一年近くも走っていなかったから、競技用義足の習熟と共に、筋力の回復も大きな課題だった。
そして競技用義足を使ったトラックでの練習を始めた。でも直ぐに私は大きな壁にぶつかった。ただでさえ、義足でのスタートダッシュは難しいのだけど、クラウチングスタートをしようとすると、右脚を引っかけて転倒してしまう。左脚でスターティングブロックを蹴りながら、右脚を大きく外側に振って一歩目を踏み出すことが必要で、今までと違うスタート方法の習熟が必要だった。
そして初めてのタイムアタックを行ったのは、あの事故からちょうど一年が経過した時だった。
スターティングブロックの前に私が跪くと、浩輔の声が聴こえる。
「On your Marks! (位置に付いて!)」
私は両手をスタートラインの前に着いて、百メートル先のゴールラインを見つめた。
「Set! (用意!)」
私は腰を上げると、全神経を耳に振り向けた。
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