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「バン!」
その瞬間、私は左脚でスタートブロックを力強く蹴って、身体を上方に起こしながら、義足の右脚を外側に大きく振って蹴り出した。
「よし!」
私は右脚の義足が一歩目を力強く踏み出したのを感じて声を上げた。そのまま全神経を両脚に移し、勢いよく左右の脚でトラックを蹴っていく。今の私にとって義足の右脚も完全に自分の脚として動かすことが出来ていた。頬に当たる風が懐かしい。そしてゴールラインを勢いよく切った。レーザーセンサでカウントダウンが止められて、浩輔がそれを見ている筈だ。
スタート側から浩輔が走って来る。
「詩織、凄いぞ! 16秒28だ。片脚義足の女子世界記録16秒13にもう少しだぞ!」
その感動と興奮に、私はその場で大きくジャンプをして見せた。そして浩輔に抱き着いた。
「嬉しい、浩輔。私、昔みたいに走れた! サポートしてくれて本当にありがとう」
私は彼の胸に顔を埋めながらそう言った。
「そうだね。でもまだだ……」
その声に私は浩輔を見上げた。彼は笑顔で私を見つめている。
「まだ、君の脚の動きと義足の動きにアンマッチがある。膝の角度、蹴り出すスピード、君の想い通りになる様に、更に調整をするよ。そうすれば、君はもっと早く走れて、一年遅れの開催となっている東京パラリンピックを狙える筈さ」
私は「うん」と大きく頷くと彼の胸にもう一度顔を埋めた。
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