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私は選手控室で首を長くして浩輔を待っていた。もう決勝開始まで三十分を切っている。
「もう、浩輔……。神様、お願い、浩輔の作業が間に合います様に……」
私は控室の入口のドアを見つめて大きく溜息を吐くと、日常用の義足を外して、浩輔が持って来る筈の競技用義足の装着の準備を始めた。
その時、激しくドアが開くと浩輔が息を切らして入って来た。
「ごめん、詩織! やっと出来た。制御ソフトも切り替えたから、多分、これまでで一番最適化出来ていると思う」
肩で息をしながらそう一気に喋った浩輔を見て、私は満面の笑顔で頷いた。
ーーー
パラリンピック女子100メートルT64(片脚義足)の決勝が始まる
「On your Marks! (位置に付いて!)」
私はその声に頷くと、他の八人の選手と一緒にスターティングブロックの前まで歩き、跪いた。そしてブロックに両脚を掛けて、両手をスタートラインの前に着く。その瞬間、私の心臓の鼓動が頂点に達する。
(……神様、お願い……。ううん、ありがとう……)
私は下を向いて地面を見つめながら、そうお祈りしていた。そして、ゆっくり顔を上げる。
その時、ゴールラインの先で両手を振っている男性を見つけた。
「……浩輔……。私、頑張るね」
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