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私の右脚
私は徐々に覚醒していた。見上げると白い天井に明るい照明が見える。首をゆっくり回すと、私は病院のベッドの上に居る様だ。口には透明なマスクが、そして点滴のチューブが左手の甲に取り付けられている。
「……えっ? 私、どうして、ここに?」
私は何故自分がここに居るのか、思い出すことが出来なかった。
その時だった。病室のドアが開き男性が部屋に入って来た。その男性は私を見ると驚いた表情を浮かべ、駆け寄って来た。
「詩織! 気が付いたんだね?」
ベッド脇の男性を見ながら一瞬それが誰かを思い出せなかった。でも直ぐに分かった……。それは、私の一番、大切な男性。
「……こ……浩輔……。うん、今、気付いた……」
そう言うと、浩輔は柔らかい笑顔で私を見つめ、ベッド脇の椅子に腰を降ろした。
「そうか、良かった。詩織はあれから三日間眠っていたんだ。僕も君の両親も、もう目を覚まさないかと心配していた……」
「ねぇ、浩輔。何が起こったの? 何故、私は病院に……?」
その質問に浩輔の顔から笑顔が消えた。
「……詩織、君はあの大会を終えて、僕と一緒に競技場から新大阪へタクシーで向かっていたんだ。その時に事故に遭った……」
その浩輔の言葉を聞き、私の中の記憶が鮮明に蘇って来た。あの時、私は浩輔と一緒にタクシーに乗っていた……。
「それは本当に一瞬だった。新大阪の手前二キロくらいの交差点を走っていたら、赤信号を無視した大型トラックが交差点に突っ込んで来たんだ」
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