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その日、私はベッドの横に置かれていた車椅子に初めて乗ろうとしていた。本当は介助人と一緒にと言われていたが、私の今日の目的にはサポーターは不要だ。
ベッドから降りようと床に足を付けたけど、左足のみで上手くバランスを取れなくて、そのまま床に転がってしまう。日本一の運動選手の私が立つことも出来ないなんて……。大きな失望に涙が溢れてくる。
私はベッドのフレームに手を掛けて立ち上がると、何とか車椅子に座る事が出来た。
そのまま病室を出て廊下を進む。廊下の先にエレベーターが見えて来た。エレベーターに乗り十階で降りると、そこは病院の屋上庭園だった。幸いのことに今日は散歩している患者さんは居ない。
屋上の端まで車椅子を走らせ、フェンスの前で止まった。フェンスは高く二メートルはあるだろう。意を決して、そのフェンスをよじ登ってフェンスの外側に降り立った。フェンスを右手で持って片足で立つと地面を見降ろす。凄い高さだ。これなら……。
「……多分、確実ね……。神様、お願い。こんな走れない私なら……」
そう言いながら、フェンスを持っていた手を離した。そして身体の重心を前に傾けようとした。
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