序歌 カダシュ国元首室にて

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序歌 カダシュ国元首室にて

「リベリナ帝国より、勅使が来た」  力強く、思慮深い声が、元首室に響く。 「皇帝陛下の勅命を、携えてな――」  人払いをした部屋には、カダシュ国元首、アルドース・ヴェスラの他に、ただ一人しかいなかった。  前に佇む、魔導着を着こみ、フードを深く降ろして顔を隠す人物へ、元首は静かに言葉を続けた。 「元皇帝の龍、クヴァイト・ル・シィンを見つけ次第、生きたまま捕縛せよ。そののち、速やかに帝都へ連絡せよとの、皇帝陛下直々のお達しだ。帝国反逆罪を犯したらしい」  重厚な椅子のひじ掛けに片腕を預け、目を細めながら、アルドース・ヴェスラは、慮りを凝らしながら呟く。 「さて、帝都で何があったのかな。そなたはどう思う。ハジェルよ」  それまで、アルドース元首の前で沈黙を守り、言葉をただ聞いていた魔導士が、おもむろに口を開いた。 「頂きました情報から察するに」  深みのある、知的な声だった。 「クヴァイト・ル・シィンはリベリナ帝国から逃亡し、現在行方が分からない、ということが一つ」  若いながらも、その実力でカダシュ国主席魔導士までに昇りつめた男は、隙のない言葉を続ける。 「『ヴァンナハッサイ』継承のために、生きたままクヴァイト・ル・シィンを捕えるべく、帝国が焦っていることが、一つ」  深くかぶった魔導着のフードの奥から、静かな言葉が淀みなく続く。 「クヴァイト・ル・シィンを捕え、帝国へ献上すれば、皇帝陛下から大変なお褒めの言葉を頂き、我が国の益となることが、一つ」  途切れた言葉の後、ゆっくりとハジェル・レスカは顔を上げて、雇い主であるアルドース・ヴェスラを見つめた。  深い紺色の魔導着のフードの奥から、鋭い眼差しが、元首に向かう。 「いずれにしろ、もし我が国にクヴァイト・ル・シィンが姿を現したときは、確実に捕らえるように、各地の領主たちに情報を徹底させることが、急務でありましょう」
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