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茜色の空は薄墨のような紫色に覆われつつある。
そんな黄昏時なのに。足元の枯れ葉さえ色の区別がつかないのに。
私は参道の片隅で左手くすり指の指輪を外し、取り落としてしまった。
なぜこんな場所でこんな時間帯に、内側の刻印を確かめたくなったのか…。せめて街灯の下なら。せめてアスファルトの上なら。
指先は冷たく乾いていた。
指輪は落ち葉の中にくらく埋もれている。小さなダイヤの輝きも見えない。
ハードコンタクトが目からこぼれ落ちたときのように、あるいは地雷を踏んだときのように、立ちすくんだ。
後悔が、逆再生で駆け巡る。
指輪外さなきゃよかった、刻印を見ようとか思わなきゃよかった、神社とか行かなきゃよかった、空港とか行かなきゃよかった、見送りとかしなきゃよかった。
頼まれてもいないのに、むしろわざと知らされてなかったのに。
本当に私たちは別れたのか確かめようとか思わなきゃよかった。
ああ、神様。
ひざをついて、指輪を探してもいいですか?
全てが涙でにじむけど、落ち葉をかき分けたら指輪は見つかりますか?
見つけたら、そうしたら…。
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