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「あの、さ」
智明くんがぽつりと話し出した。
「ペアの指輪は……さ。変に将来を意識し過ぎて、俺が挙動不審になりそう……。だから、今回はごめん……」
(全然気にしないのに……)
私が智明くんの腕にそっと触れると、智明くんがぎゅっと抱きしめてくれた。
(挙動不審な智明くん、かぁ)
私は想像した。日常生活の何気ない言葉に敏感に反応する智明くんを。
(刑事ドラマとか観てて、『血痕』ってワードにもびくってなったりして……)
そんなマンガみたいな展開を想像して、くすくすと笑ってしまった。
「……何?」
「ごめんごめん。なんか挙動不審になってる智明くんを想像したら……」
私は智明くんに悪いと思って、なんとか笑うのを我慢しようとしたけど肩が震えてしまう。
「私といる時ずっと、智明くんがそんなだったら、私が『重っ……』って思っちゃいそう……」
笑い過ぎて目に溜まった涙を人差し指で拭いながら、私は後ろの智明くんの方に向いて言った。
「私が欲しいのは、智明くんとのお揃いの物。今回いいなって思ったのが、たまたま指輪だったから話がややこしくなっちゃったね。ごめんね」
私がそう言うと、智明くんがはあー……と息をつきながら、私の肩に顔を埋めた。
……ちょっとだけ首筋がくすぐったい。
「よかった……。まじで別れ話切り出されたらどうしようって心配した……」
「私だって、昨日逃げるように帰っちゃったから、嫌われたらどうしようって心配だったよ……」
「桜子……」
智明くんが顔を上げて、私の頭の後ろに手を添えた。
彼の顔が近づいてくる。
あ、キスの予感……。
私はそっと目を閉じた。
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