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ーー家までは電車で20分。
車内は少しだけ混んでいたので、ドアの近くに立って窓の外を眺めた。
遠くに近くに、家の窓から漏れた灯りが後ろへ流れていく。
その景色がぼやけた。
(……泣かない……!)
さっきの智明くんとのやり取りを無理やり頭の片隅に追いやる。
電車を降りて改札を抜けて、俯いたまま早足で家へと急いだ。
家の玄関に入ると、ちょうどお風呂から上がって、肩にタオルを掛けたジャージ姿のお兄ちゃんを目が合った。
後ろで玄関のドアが静かに閉まる。
お兄ちゃんが目を丸くしていた。
「あれ? 桜子お帰り。遅くなるんじゃなかったっけ?」
「……お兄ちゃぁん……!」
私は玄関に立ったまま、ぼろぼろと泣き出した。
「ちょっ! どうした桜子? ……とりあえず部屋に行きな。なんか飲む物持ってってやるから」
お兄ちゃんに促されて、私は泣きながら自分の部屋に入った。
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