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4『SGQ!』
此処はスムージー研究所。
通称、「SGQ」(スージーキュー)。
現代人の飽くなき健康欲動を満たすべく、日夜新たなスムージーを生み出しているのだ!
「混ぜれば混ぜるほど。味が出てくるのがスムージーというもの。さあ、味気ない人生を、もっともっとかき混ぜるのだあああ」
所長のマゼ・クスミ博士は、今日も公私混同で、研究に全てを費やしている!
「博士!大変です!」
「どうした!助手のジョシュア君!」
「政府のエージェントが、訪ねてきています!まさか、あの研究のことがバレたんじゃ…」
「は、はあ、はあ、はあ、ジョシュア君、落ち着け!落ち着け!落ち着け!落ち着けええええええええええ」
ブイイイイイイイインとミキサーに手あたり次第に色々なものを入れて、混ぜ始めた博士。
「博士!落ち着いて下さいいいい!」
イイイイン!音が止まる
「説明しよう!このミキサーは、混ぜ終わると自動でとまる優れモノだ!」
おもむろにミキサーの中身をコップに移し、飲み始める博士。黄土色の横顔は、みるみる血色を取り戻し、さらにいつもより見ている方が気持ちの悪い顔になって、
「…さてさて、エージェントが来たって?あってやろうじゃねえか。フフフフヘヘヘヘえ…」
「え、なんか雰囲気変わった!?まさか…このスムージーは…」
トラフとユキコが、博士の書斎に通された。
「こんにちは。お忙しいところ恐縮ですが、少しお話を聞かせて頂けませんか。私、トラフと申します。」
「アシスタントのユキコです。」
「こんにちは、トラフさん。活躍のお噂はかねがねお聞きしておりますよ。
そしてこんにちは、ユキコさん。フヘヘヘヘヘ。本日は、どんなご用件で?」
「博士、その顔と笑い方、やめましょうよ。もともと見れたもんじゃないのに。」博士が二人と握手していると、助手が言った。
博士がパンチを繰り出すと、助手は、書斎の木製のドアを突き破って飛んで行った。トラフとユキコが立つ位置から、1mも離れていない軌道を通っていった。
「ええ。実は先日の、生化学者連続失踪事件の調査を行っておりまして。」
突っ込みを入れたほうが、負けなのかもしれない。そう思ったトラフは、事務的に処理する道を選んだ。
「ほほう?確か新聞にも出ておりましたな。帝国のお抱えその共通点は!ななななんと!朝に特製スムージーを飲んでいたこと。
しかし真相は、お昼のワイドショーでやってそうな、スムージーなのに根も葉もない推論しか立たず、事件は未だ解決されていないとか。」
トラフは、博士の大きすぎるボディランゲージにコメントすることは避け、話を続けることに専念した。
「そうです。博士は、その方面の専門家でいらっしゃる。是非ご意見をお伺いしたいと思いまして。」
笑いを噛み殺しながら、ユキコが続けた。
「なるほど…しかし、私たちの研究所で行われているのは、人々の健康な生活を後押しするための飲料、スムージーの開発です。失踪事件の捜査に、お力添えできるかわかりませんが…」
「いいえ、あなたたちにしかできないことがあります。」
ユキコが小型ラックトップを取り出し、エンターキーを押すと、ユキコが持っていたアタッシュケースの一つから、おもり付きネットが飛び出した。
「うわわわわーオーマイガットの助!!」
「ガットの助…」
助手は復活と同時に、博士と共に捕えらえた。
「私たちに大人しく逮捕されて下さい。」
ユキコが冷たく言い放った。トラフが令状と共に、説明を始める。
「一連の失踪の共通点は、特製『スムージー』を飲んでいたこと。
大きく窓が割られたり壁が突き破られたりしていたこと。
この奇妙な偶然をもとに、我々政府機関は調査を開始しました。」
さあ、この後、ユキコから事件の真相が告げられるぞ!しかしと~っても長いので、良い子のみんなは読み飛ばして大丈夫!
「そして、以下の点が明らかになりました!
調査開始当初から警察はスムージーの原材料の方を調査しておりましたが、我々政府機関は、むしろミキサーが原因とみていました。国立スムージー研究所、以下SGQは、所長のマゼ・クスミ博士のスムージー攪拌用の刃、「クスミ・カッター」の開発により、特許を取得しております。これは、ココナッツの皮からジュースが作れるほどの切れ味をもつと謳われています。そして、それと同時に極秘に開発されていた「クスミ・パッキーン」というゴムパッキンには、微量の金属成分が含まれていました。因みにこれは、2週間前の当方の調査員による極秘潜入捜査により明らかになりました。今月に入ってから発売されたスムージー攪拌ミキサーのうち…そう、ちょうどこちらにある型を使った家庭で、事件は起きていました。スムージーに含まれていた金属成分は、もともとの野菜に含まれた鉄等の由来とは考えられない、明らかに人為的にもたらされた、リン脂質から成る膜状組織です。そしてその中身というのが…」
「その先は、『釈迦に説法』というものだよ。ユキコちゃん。」
ユキコによる、パワーポイントを使っても長くて分かりにくい説明の間に博士の体はみるみる皮膚が緑になり、背丈が1.5倍ほどになった。
「え!!今の説明、ちゃんとリスニングしてたんすか!?博士トレビアン~~~」助手が博士を見上げながら、拍手した。
「そんな褒めると照れるじゃ~~ん。トレビあ~ん」助手が吹っ飛ぶ。彼らを閉じ込めていた拘束用ネットが破れた。
「そう、スムージーに含まれていたのは、私が開発した、『怪人化RNA』だ。ゴムパッキンに仕込んだナノ粒子を入れた袋が、刃の回転とともに破れる。中から出たRNAが、野菜の細胞の残骸と急速に結合する。そして飲んだ者は…」
右腕がむきむきになる。地面を吹き飛ばす。風圧で研究所が吹っ飛ぶ。
「怪物となるのさ♪フフフフフヘヘヘヘヘヘ」
大きく後ろに飛びのいて避けるトラフ。
ユキコは、手に持っていたスイッチを押し、シールド展開で防御した。
「やっぱりおニューの服で来るんじゃなかったわ…私もまだまだね…」
「博士…スタディはグッジョブですね!!!」
「ああ、ジョシュア君!…できあがった植物モデルの怪人化細胞を、失踪者は口にした訳だ。」
「ありがとうございます。全て話して頂いて。報告書を作るのが楽になります。」
「報告書??…此処から、生きて出られたらの話だがな!!」
トラフにパンチ。右にはね飛んでよける。作業用机がひしゃげた。
「んじゃ、あとはお願い~!!」書斎近くの窓から、ユキコは脱出した。
「ったく。調子の良い女だ…」
トラフは毒づきながら、小口径の銃を発砲。博士に当たるが、効かない。
チラッと、もう一つのホルスターに目をやる。
「ちっ。まだ時じゃないってのか!?ベイビー」
「ほらほらほら!さっきの余裕はどうした!」
更に博士がパンチ。しゃがんでかわすと、研究所の上に上がる。助手が吹っ飛び、壁に激突した。
「ど、どくたー・・・ぐれいとなぱわーーーどぇすね・・・」
「外に逃げて、こいつを外に出すわけにはいかねえ…」
エージェントは非常用梯子で屋上へ。博士が追いかける。
「わざわざ、死に場所を求めに行くとは…ぬかったなあ、エージェントよ。そして今は正午…太陽が一番高い。光合成エネルギーが、最も高まる時間だ。」
博士の体が、虹色に輝く。
「なるほどな。しかし…」
トラフの左の脇腹のホルスターに入った銃が光り始める。
「お前の力が与える恐怖なんざ、あの女が作る手料理の1000分の1だ。」
トラフが右手を構えると、銃がホルスターから空中へ飛び出す。
手の中に収まると、3発撃ち出した。
「銃は効かないと、言っているだろう?しかも、何処に撃っている?」
拳を下に振ると、コンクリートの地面が割れた。
勢いで吹っ飛ばされ、トラフは落ちそうになる。
「お仕事ご苦労だったね。さらばだ、エージェント。」
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