9.佳穂とカフェで

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 だけど「送って行きましょうか」と問いかけた修太郎(しゅうたろう)に、日織(ひおり)は即座に『大丈夫です。お仕事のことだから自力で頑張りたいんです。気遣って下さって有難うございます』と拒絶の意志を伝えてきた。  外で働いた経験が、先の市役所での足掛けバイトのような経験しかない日織は、だからこそ仕事の時は誰よりも「一人前」でありたいと願っている。  現に日織は、プライベートなことならば、大抵修太郎の申し出に「有難うございます」と乗ってくれるのだ。  だけど今回は仕事だから。「一人で頑張りたい」と日織がいつも以上に気張っているのが、修太郎にも先のメールからひしひしと伝わってきて。 『自分がすることでお金を頂けるのって本当に久々なのです! 私、いま、とってもワクワクしています! 修太郎さん、私のバイト、許可して下さって本当に有難うございます! 私、幸せ者なのですっ!』  昨夜電話口で、『明日から売り子のための研修なのです』と言ってきた日織が、通話を終える間際に嬉しそうにそう声を弾ませたのを修太郎は思い出す。 (あんなに嬉しそうにされたら、邪魔なんて出来ないじゃないか)
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