10.羽住一斗という男

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 風は冷たいけれど、しっかり防寒対策はしてきたつもりだし、歩いて行っても問題はないはずだ、とすぐに気持ちを切り替えた。 (お父様やお母様に嘘をついたみたいになってしまったのは心苦しいけれど、このまま行っちゃいましょう)  そう心に決めた日織(ひおり)である。  手荷物は今日のランチ用に作ったお弁当と、財布やハンカチなどが入った小さなバッグのみ。  足元だって、元々歩くつもりで支度していたから、内側がボアになったハイカットのスウェード素材のショートブーツでとっても歩きやすい。  結構履きこなしている靴だから、靴擦れなどを起こす心配もないはずだ。 「よし! そうと決まれば善は急げなのですっ。出発進行(しんこぉ)〜♪」  本当は家を出た時にはすでに「出発」していたのだけど、日織の中では今まさに、このバス停からが仕切り直しになった。  グッと両手で小さく拳を握ると、誰もいないのを良いことに、自分に気合いを入れるみたいに声にしてゴーサインを出して、颯爽と歩き出した。  今日は、日向にいれば日差しの暖かな快晴の土曜日。
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