1.修太郎さん、まだお話がっ*

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 愚かな妄想に不安になって眉根を寄せる修太郎(しゅうたろう)に、日織(ひおり)がそっと身体を擦り寄せるようにしてつぶやいた。 「私のは……修太郎さんに対してだけなのに。疑うなんて酷いのですっ。私、修太郎さんしか知らないのにっ!」  どこかあどけなさを残す愛らしい顔で、日織は時折こんな風に大胆なことをサラリと言って、修太郎を戸惑わせる。  そこがまた彼女の魅力だと分かっていても、心臓に悪いのは確かだ。 「日織さん……」  吐息混じりに修太郎がそんな罪作りな若妻の名を呼べば、「なんでしょう?」とキョトンとした顔をする。 「それは……お互い様なのですが」  修太郎が日織の顔を見つめてつぶやくようにそう言ったら、 「日織は一途な修太郎さんが大好きなのですっ」  満面の笑みで、日織がギュッとしがみついてくる。  修太郎が、日織には到底敵わない、と白旗を上げたくなるのは、まさにこういう時だ。  ギリギリのところで懸命にあれこれ我慢しているというのに。  日織はそれすらも叩き壊さんばかりに追い討ちをかけてくる。 「貴方はっ。僕をどれだけ煽るおつもりですかっ」  さすがにもう一度抱かせて欲しいと言ったら、日織は戸惑うだろう。  それが分かっているから、恨み節のひとつもこぼしたくなった修太郎である。  日織は分かっていないのだ。  三十路(みそじ)を過ぎるまで日織を思い続けて、他の女性に見向きもしなかった修太郎にとって、やっと手に入れた日織に対する欲望が、果てしなく底なしだということを。
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