10.羽住一斗という男

10/15
前へ
/318ページ
次へ
*** 「わー、日織(ひおり)ちゃん。十升(みつたか)から聞いてはいたけど……人妻になっちゃったって本当(ほんとぉ)なんだねー?」  建物前でガッツポーズをして人妻宣言をしていた日織に、背後からとした声がかかる。 「わわわっ。一斗(いっと)さんっ」  寒い冬の日なのに、その人の周りだけまるで小春日和(こはるびより)。そこにいたのは、春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)という言葉がピッタリ当てはまりそうな雰囲気の人物だった。  十升(みつたか)日織(ひおり)より三つ年上。  緩めのスパイラルパーマが掛かった動きのあるミディアムロングの黒髪を、センター分けにして黒縁のオーバル型の眼鏡を掛けた一斗(いっと)は、身長も十升(みつたか)より高くて、おそらく修太郎と同じくらいだろう。  日織(ひおり)が知る一斗(いっと)は学ラン姿のまま止まっていたけれど、今の彼は濃紺の和装姿で、どこの大店(おおだな)の若旦那ですか?という雰囲気だった。  冬だからだろう。  (あわせ)の上に同色の羽織を羽織っていて姿勢がよく、とてもセクシーに見えた。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

447人が本棚に入れています
本棚に追加