10.羽住一斗という男

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 兄貴だけお(とが)めなしとかおかしいだろ?という不満が、十升(みつたか)からヒシヒシと感じられる。 「そ、それは――」  正直分からない、と思ってしまった日織(ひおり)だ。 「ん〜? 日織ちゃんのご主人はそんなに嫉妬深いの?」  何も知らない一斗(いっと)がほわんとした口調でそう問えば、十升(みつたか)がそんな兄をキッと睨みつける。 「()え〜っちゅーもんじゃねぇんだよ! 兄貴もこいつのことは〝塚田(つかだ)さん〟って呼べるように練習しといた方がいいぞ」  これは脅しではない。  十升(みつたか)の本心から出た言葉だったのだが、一斗(いっと)は眼鏡の奥の温和そうな目を一瞬だけスッと(すが)めただけで、クスッと笑って弟からの忠告を聞き流してしまう。 「僕は嫌だな。結婚してようとしてなかろうと、僕にとって彼女は〝日織ちゃん〟だ。誰かに言われて呼び名を変えるとか有り得ないよ。――ね? 日織ちゃん。キミもそう思うでしょう?」  一斗(いっと)にそう言われると、そうかも知れないと思わされる不思議な力があった。
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