10.羽住一斗という男

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 日織(ひおり)は無意識、一斗(いっと)の笑顔にほだされるみたいにコクッと頷いてしまっていた。 「さあ、こんな寒いところでいつまでも立ち話も何だし……中、入ろっか。きっと親父が一人でヤキモキしてるよ?」  一斗(いっと)は、未だに何か言い募ろうとする十升(おとうと)の前に片手をスッと(かざ)すと、「この話はもう(しま)いだよ?」と言わんばかりに制してしまう。  そうして自分のすぐ横に立つ日織(ひおり)の手をごくごく自然な様子で握った。 「可愛い日織ちゃんに風邪でもひかせちゃ、それこそ一大事だ。――行こう?」  日織も、修太郎(しゅうたろう)以外の異性に手を引かれたというのに、何故か「ダメ」だという気持ちが湧いてこなくて、そのまま「はい」と応えて素直に従ってしまう。  その場に取り残された十升(みつたか)だけ一人、そんな二人の様子を見て、「絶対ヤベーだろ、これ」と思っていた。  
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