11.羽住酒造と藤原家の稼業

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日織(ひおり)さん、日之進(おとう)さんが扱っておられるのは『木材』です」  考えてみれば、木、という漠然とした言い方をした自分が悪かったのだ、きっと日織さんは悪くない、と反省しきりの修太郎(しゅうたろう)だった。 「木、材……?」  修太郎がそう言って初めて、日織がハッとしたように息を呑んで。 「私、木ってそんな大きなもののことだなんて、想像も及びませんでしたっ!」  不覚なのですっ!と続けている日織を横目に、修太郎は (もしもこの場に異母弟(おとうと)の健二がいたなら、「いや、日織さん! 普通はそっちが先に来るものですからね!?」とすぐさまツッコんでいただろうな?)  と思わずにはいられない。  けれど、あいにくというか幸いというか。〝日織という女性〟を熟知している修太郎は違うのだ。  彼は(日織さんなら斜め上の想像をして、ふんわりした妄想を繰り広げてきても何ら不思議ではないし、寧ろそうでなくちゃ彼女らしくない)とすら思っている。  思えば修太郎自身、まるでそれを期待するように、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、内心ワクワクしていたのだから。  案外最初の時「木材」と言わずに無意識に「木」という言葉を選んでしまったのだって、それを期待していたのかも知れないな?と、ひとり心の中で苦笑した修太郎だった。
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