13.好きなものを好きだと思うのは悪いことなの?

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***  蔵の方では日織(ひおり)たち同様、白一色の服装に身を包んだ十升(みつたか)が、杜氏(とうじ)である能見(のうみ)の指導のもと、真剣な眼差しで蒸し上がったばかりの大量の米と向き合っている真っ最中で。  離れた場所からでも蒸し立ての米から上がる熱気が伝わってくるなか、額に汗を浮かべた十升(みつたか)が、真剣な表情で熱々の米を手に取って押しつぶしたりしながら、()めつ(すが)めつしているのが見えた。 「あれはね、蒸し上がった米が狙った柔らかさに仕上がっているか、チェックしているんだよ」  善蔵(ぜんぞう)にそう教えられて、日織(ひおり)は思わず感嘆の吐息を漏らしたのだ。  硬すぎれば米の形が残るし、柔らかすぎれば粘ついてくっ付いてしまう。  その辺りの絶妙な蒸し上がり加減を、職人の「感覚」を頼りに蒸しているのだと言う。  現在十升(みつたか)は、その職人としての「勘」を養うために能見(のうみ)に付いている形だ。  ちなみに羽住(はすみ)酒造で使われている蒸し器は、昔ながらの(こしき)と呼ばれる 蒸籠(せいろ)と同じ原理を持つ大きな釜のような機械なのだそうだ。  連続蒸米機と呼ばれる、ベルトコンベアの上に敷いた米に蒸気を当てながら加熱していくものと違い、(こしき)は連続的に処理が出来ないため効率は悪い。  代わりに、蒸しの調節が細かくできるため、良い蒸米(むしまい)が得られるというメリットを持つのだとか。
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