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蔵の方では日織たち同様、白一色の服装に身を包んだ十升が、杜氏である能見の指導のもと、真剣な眼差しで蒸し上がったばかりの大量の米と向き合っている真っ最中で。
離れた場所からでも蒸し立ての米から上がる熱気が伝わってくるなか、額に汗を浮かべた十升が、真剣な表情で熱々の米を手に取って押しつぶしたりしながら、矯めつ眇めつしているのが見えた。
「あれはね、蒸し上がった米が狙った柔らかさに仕上がっているか、チェックしているんだよ」
善蔵にそう教えられて、日織は思わず感嘆の吐息を漏らしたのだ。
硬すぎれば米の形が残るし、柔らかすぎれば粘ついてくっ付いてしまう。
その辺りの絶妙な蒸し上がり加減を、職人の「感覚」を頼りに蒸しているのだと言う。
現在十升は、その職人としての「勘」を養うために能見に付いている形だ。
ちなみに羽住酒造で使われている蒸し器は、昔ながらの甑と呼ばれる 蒸籠と同じ原理を持つ大きな釜のような機械なのだそうだ。
連続蒸米機と呼ばれる、ベルトコンベアの上に敷いた米に蒸気を当てながら加熱していくものと違い、甑は連続的に処理が出来ないため効率は悪い。
代わりに、蒸しの調節が細かくできるため、良い蒸米が得られるというメリットを持つのだとか。
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