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「日織ちゃんは『波澄』にも大吟醸があるの、知ってる?」
一斗に言われて、日織はフルフルと首を横に振った。
日織が知っているのは吟醸酒の波澄のみで、店頭でもそれ以外を見かけたことはなかった。
考えてみれば先日善蔵にプレゼントされた前掛けにも、『純米吟醸 波澄』と書かれていたはずだ。
「波澄の大吟醸は蔵元でしか買えないんだ。それも生産数がかなり少ないから、店頭に並べても即売り切れてしまう。……本当に知る人ぞ知る幻の酒なんだ」
言われて、もしかして幼い頃父・日之進に連れられて、わざわざ羽住酒造に来ていたのは、そのお酒を入手するためだったんじゃないかと思ってしまった日織だ。
「――日之進さんも何度か買って行かれたことがあるよ。日織ちゃん、小さかったから覚えてないのかな」
一斗の言葉に頷きながらも、「やはり」と得心のいった日織だ。
日織が日本酒の美味しさに目覚めたのはここ一年余りのことだから知らなくても無理はなかったのだけれど、今度機会があったらお父様を問い詰めてみようと心に決めた。
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