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「ひやおろし、飲めなくて残念なのですっ」
言ってから、ふとあることに気がついた日織だ。
「あ、あのっ、もしかしてこの右側のって……」
「大吟醸の波澄だよ」
やっと気がついた?と眼鏡の奥の瞳を細められて、日織はまたしてもドキッとしてしまう。
(一斗さんはいちいち修太郎さんと雰囲気が似ていらっしゃるからややこしいのですっ)
しかも、日織が大好きな日本酒の話で翻弄しつつ、だからたちが悪いのだ。
そんなことを思って一人勝手に「むむぅ〜」っと眉をしかめた日織に、
「ところで日織ちゃん。今日はこのあと車の運転をする予定、ある?」
まるでそんなこと意に介した風もなくのんびりとした声がかかる。
「ないですっ! というか私、免許自体持っていないのですっ」
その言葉に勢いでそう答えて、車を運転できない自分のことが、ふと情けなく思えてしまった日織だ。
いつも修太郎や日之進が甘やかしてくれるから、自分が車の免許を持っていないことを不便に感じたことがなかった。
それで、車の運転免許証が欲しいと思ったこともなかった日織だけど――。
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