16.酒蔵祭り

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 修太郎(しゅうたろう)としては首筋のラインが見え過ぎることが非常に気に入らない。  正直、誰にも見せたくないとすら思っている。 「食べ物を扱うんですもの。髪の毛を下ろしていたらダメだと思うのですっ」  だけど、日織(ひおり)は日織なりにポリシーを持って、その髪型にしているらしい。  返されたセリフが余りにも正論で、修太郎はグッと言葉に詰まってしまった。 「じゃ、じゃあ。――そうだ! お家からスカーフをお持ちしましょうか?」  マンションに戻る折に日織の実家に立ち寄って義母織子(おりこ)に相談すれば、きっとスカーフの一枚や二枚、すぐに出してくれるはず。 「……修太郎さん」  だが、そんな修太郎の提案に、日織は小さく吐息を落とすと、静かに夫の名前を呼んで、じっと顔を見つめてきた。 「私、先程も申し上げましたよ?」  色素の薄いブラウンアイに見据えられて、修太郎はまるで蛇に睨まれた蛙みたいに身動きが取れなくなる。 「少し落ち着いてください。私、子供じゃないのです。そんなに心配なさらなくても大丈夫ですから」  そこで日織はドアハンドルから手を離すと、修太郎の方へ身体を寄せてきた。
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