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「なぁ藤原。お前、息抜きにもなるしさ、俺んトコの蔵、手伝いに来ねぇ?」
酒まつりの時の売り子を探しているのだと続けられて。
「お前、日本酒好きそうじゃん? 俺んトコの蔵の酒も結構飲んでくれてんだろ? アレコレ教えなくても最初からある程度基礎知識がある人間が手伝ってくれたらこっちも楽だし有難ぇんだわ……」
そう続けられて、日織は戸惑いとともに、誰かから必要とされることへのワクワク感が湧き上がってくるのも感じて困惑する。
修太郎と一緒に、生まれて初めて市役所で働いた経験は、日織にとって間違いなくかけがえのない宝物だったから。
羽住からの売り子への誘いで、それをふと思い出したのだ。
仕事をしてその対価として得たお金で、大好きな修太郎に何かプレゼントができたなら。
いつも与えられてばかりいる日織だから……そう考え始めたら夢想が止まらなくなって。
今、家で花嫁修行の一環として家事手伝いをしながら料理のノウハウを実母や義母から教わるのも楽しい毎日ではあるのだけれど。
出来たらまた、ほんのちょっとでいいから外で働いてみたいという気持ちもあって。
何より――。
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