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口調とパッと見こそ、本当にいつも通りだから分かりにくいのだけれど、普段であればこんなにグイグイ行く子ではないから。
「日織さん……」
修太郎が声を掛けるけれど日織は理人から目を逸らさない。
「ひおちゃん……」
葵咲がそんな幼なじみを心配そうに見つめて。
日織は自分を案じてくれる葵咲に眉根を寄せると
「待たされる辛さは私、イヤと言うほど骨身にしみているのですっ。だからっ。ききちゃんのこと、すごくすごく気になるのですっ」
言って、まるで景気付けのように手元に置かれた金雀をクイッと煽った。
「あっ……」
思わず修太郎が声を上げたけれど日織本人はいっかな意に介した様子はない。
よく冷えた金雀は、グラスを程よく曇らせていて、それがビジュアル的にも美味しさに拍車をかけているように見えて。
理人は小さく吐息を落とすと、日織同様自分のグラスを空にした。
「勝手に……失礼しますね」
理人は一言修太郎に断りを入れると、くぼみに氷の入った冷酒用のデキャンタを手に取って、日織のグラスに酒を注いだ。
「あ、ありがとうございます。私も……」
日織も理人にも同じようにして。
二人の――と言うより日織のグラスにまたしてもお酒が満たされてしまう。
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