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日織が入浴している間に少しだけ。
そう思って、修太郎は本棚の片隅に並べていた本を手に取った。
純文学を読むのは久々だったけれど、題材が自分たちと同じ13歳年の離れた夫婦の、少し風変わりな愛の形を描いたものだったから、つい学生時代などに、日織のことを想像して読んだりしていたのを思い出したのだ。
自由奔放な歳の離れた女性に振り回される愚かな男を描いた官能チックな題材ではあったものの、直接的な性表現がなかったからか、経験値の低い自分でも案外すんなり読むことが出来た。
むしろ精緻に情交の様が描かれている作品よりも、女性経験のなかった修太郎にとっては想像力を掻き立てられて刺激的に感じられたくらいで。
しかしながら繊細で美しい筆致の賜物か、読んでいて嫌悪感などは微塵も感じなかったのを覚えている。
日織と情を交わした後である今、再度これを読んだなら、未経験だった頃とはまた違って感じられるだろうか?
そんなことをふと思っただけだったのだが――。
案外没頭してしまっていたらしい。
修太郎は日織が脱衣所の扉を開けたことにすら気付かず、彼女がリビングに姿を現すまで本から目を離すことが出来ないでいた。
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