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羽住のスマートフォンの画面に「藤原日織」の文字を見つけて、小さくうなずいてから、日織は「あっ!」と思う。
「私、もう藤原ではないのですっ。塚田日織なのですっ」
言ったら、「塚田とか言われてもピンとこねぇんだよ。そっちで登録しちまったら、電話帳から呼び出すのに名前思い出せなくて苦労すんだろ」と眉根を寄せられる。
「……でもっ」
それでも「藤原」と登録されてしまうと、修太郎とのご縁を否定されているみたいに思えて、日織は落ち着かないのだ。
「分かったよ。じゃ、これでいいだろ?」
溜め息とともに差し出された画面には「日織」とだけ記されていて。
「下の名前は結婚しようがすまいが変わんねぇだろ? な? 日織!」
とか。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。勝手に呼びかた変えないでくださいっ」
言っても、聞く耳持たずと言った調子で、「藤原って呼ばれんのは嫌なんだろ? で、俺は塚田って呼びたくねぇ。だったら譲歩して日織って呼ぶしかねぇじゃねぇか」と、もっともらしく言われてしまう。
「でも、ダメなのですっ。私を下の名前で呼んでもいいのは修太郎さんとお父様とお母様と……幼馴染みのききちゃんと健二さんと……健二さんの許嫁の佳穂さんと……修太郎さんの妹さんたちとご両親と……それからそれから」
「ん? それって結構いるってことだろ? じゃ、問題ねぇじゃん」
一生懸命言い募ったら逆にニヤリとされて、結局、羽住から「日織」と呼ばれることは決定事項になってしまった――。
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