2.同窓会

16/16

445人が本棚に入れています
本棚に追加
/318ページ
 羽住(はすみ)のスマートフォンの画面に「藤原(ふじわら)日織(ひおり)」の文字を見つけて、小さくうなずいてから、日織は「あっ!」と思う。 「私、もう藤原ではないのですっ。塚田(つかだ)日織なのですっ」  言ったら、「塚田とか言われてもピンとこねぇんだよ。そっちで登録しちまったら、電話帳から呼び出すのに名前思い出せなくて苦労すんだろ」と眉根を寄せられる。 「……でもっ」  それでも「藤原」と登録されてしまうと、修太郎とのご縁を否定されているみたいに思えて、日織は落ち着かないのだ。 「分かったよ。じゃ、これでいいだろ?」  溜め息とともに差し出された画面には「日織」とだけ記されていて。 「下の名前は結婚しようがすまいが変わんねぇだろ? な? 日織!」  とか。 「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。勝手に呼びかた変えないでくださいっ」  言っても、聞く耳持たずと言った調子で、「藤原って呼ばれんのは嫌なんだろ? で、俺は塚田って呼びたくねぇ。だったら譲歩して日織って呼ぶしかねぇじゃねぇか」と、もっともらしく言われてしまう。 「でも、ダメなのですっ。私を下の名前で呼んでもいいのは修太郎さんとお父様とお母様と……幼馴染みのききちゃんと健二さんと……健二さんの許嫁(いいなずけ)佳穂(かほ)さんと……修太郎さんの妹さんたちとご両親と……それからそれから」 「ん? それって結構いるってことだろ? じゃ、問題ねぇじゃん」  一生懸命言い募ったら逆にニヤリとされて、結局、羽住(はすみ)から「日織」と呼ばれることは決定事項になってしまった――。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

445人が本棚に入れています
本棚に追加